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上記のリストはGroup Withが独自に調査・作成したもので、毎年更新しています。ご協力頂いた各関係機関の皆様方に心より感謝申し上げます。
 
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    最終更新日 2018年10月
 

海外邦人のメンタルヘルスケア

<欧州ーイギリス その2>

サイコセラピスト(心理療法士)の日保田裕子先生に邦人のメンタルヘルス調査結果(1999年調査)と問題点及び在留邦人のメンタルヘルスケアの状況を伺いました。(2003.3 Group With)
                                              
 
日保田 裕子氏プロフィール(2014年現在)
英国心理療法協会(UKCP)公認サイコセラピスト
英国カウンセリング心理療法協会(BACP)公認上級カウンセラー
英国人間性心理学臨床士学会(UKAHPP)公認サイコセラピスト
英国心理療法協会(UKCP)公認スーパーバイザー
日本と英国においてこの分野に25年以上携わり、教育機関、医療機関、企業などで臨床を行い、異文化問題を中心に研究に従事、文献を執筆、出版。ワークショップやメディアを通しこの分野の指導にあたる。
 

2002年10月の時点での英国在留邦人数は約50800人と報告され、その内訳は以下のような割合でした。昨年度の報告との大きな差は、初めて留学生・研究者・教師の割合が民間企業関係者を上回ったことです。特に留学生は在留届を出していない人も多く、英国政府の発表では日本人留学生は55000人とも言われています。
 
留学生・研究者・教師及び家族  37.3%
民間企業関係者及び家族     35.6%
自由業関係者及び家族       1.9% 
政府関係職員及び家族       1.5%
報道関係者及び家族        0.7%
その他              4.3%
永住者             18%
1999年時にも英国には約50000人の邦人が在住しており、当時邦人向けメンタルヘルス調査を実施された日保田先生にそのアンケートの結果報告* をお聞きすると共に現在にも通じる在留邦人のメンタルケアの状況を伺いました。 
*(財)メンタルヘルス岡本記念財団 研究助成報告集11掲載

邦人向けメンタルヘルス調査(1999年)結果報告及び問題点

1.アンケートの要約
アンケート実施時期 1999年
アンケート実数 約500人 
回答率 35%
性別 男女比: 1 : 4 
年齢 20代 15% ,30代 53%, 40代 23%, 50代以上 8% 
職業 有職者 :無職 1 : 1 
在英年数 1年未満14%, 1年以上3年未満 28%, 3年以上5年未満 16%,5年以上10年未満 27%
家族形態 単身 15%家族帯同 83% (不明2%) 
アンケート内の質問ではメンタルヘルスを重症の精神病と混同してネガティブな反応を示すことのないよう「ストレス」という言葉を用い、渡英後の精神的なストレスの度合い・その内容・処理方法・サポートの得方・専門的な援助への意見・今後望むメンタルケア等について尋ねた。

[結果]
全体の2/3の人が渡英後時々、もしくは何度も、言葉の障害やそれに付随する劣等感や英国生活への幻滅感でストレスを感じ、全体の1/4の人が、生活に支障をきたしている。
処理方法にはポジティブ思考をすること、友人や家族に話すこと、入浴・旅行・運動などで気分転換すること等が挙げられ、何らかの自分なりの方法で処理している結果が出た。専門家に相談する人はわずか4%。専門家とは指圧、マッサージ、鍼、灸、カウンセリング・サイコセラピー、医者、占いなどを挙げた。カウンセリング・サイコセラピーについてはどのようなものか分らないと答える人が多かったが、必要があれば利用したいと考えていることが分った。
性差の出た項目は男性が上手くやらないといけないというプレッシャーを多く感じ、女性は孤立感を感じて引きこもりがちな点であった。ストレス解消法も女性はサポートを広範囲に求めて実践的に参加を試み、男性はセミナー参加やニュースレターを読んで頭を使ったり身近な人に相談したりして自分で処理しようとする傾向が強かった。

有職者は人間関係への悩みを持っているものの、ストレスを感じるのは孤立感を持つ無職の人の方がより多い結果となった。家族帯同者がストレスを最小限に止める方法を様々試みていることに対し、単身者は過度な飲食や喫煙で気を紛らわす傾向があった。

[考察]
異文化と接する機会の少ない日本人は異文化生活へのトレーニングを受けて海外に出ることはほとんどなく、海外生活は思った程た易いことではない。
特に言葉の問題は多く、それに起因する心理的影響として、自己表現できない焦燥感や自分の無能さゆえの落ち込み、人間関係での誤解等からの引きこもりが表われることもある。彼らへのサポートシステムにも偏りがあり、手近な範囲でのサポートは得てもそれだけで解決できない深刻な問題も多い。他の少数民族は心のよりどころである宗教からのサポートを得ているが、日本人にはそういった環境は見られない。

日本人医師団からは精神的な問題を訴えてくる患者さんが多いとは聞くものの、アンケート結果からはそのような機関に相談に行く割合は少ない。両者のギャップを確認して意識と制度のどこに問題があるのかを探っていく必要がある。今回のアンケートを50の日系企業や学校に送ったが回答を得たのは3つの組織だけだったこと、その中でメンタルケアサポート対策を取っているところは全くない状況であった。邦人向けのサポートが元々少ない海外生活において、メンタルヘルスへの認識を高めていく必要があり、専門家の援助が必要な場合にもっと行きやすいような環境を作る必要がある。

今回のアンケートでは、カウンセリング・サイコセラピーがまだよく理解されていないが、どのようなものか情報を得て役立つものならば利用してみたいと思っている人も多いことが分った。結局メンタルヘルスへの啓蒙活動をすることが重要であり、それには企業などを通して行うことも一案である。将来的には効果的な予防法の研究も必要であり、日本独自の文化に合った臨床法を取り入れていくことが望ましい。
 
2.言葉の違いから起こる問題
●英語は英語圏に住めばできるようになるという期待。それができないと自分を責める。
           ↓
 自信をなくす。フラストレーションがたまる。

<大人の場合>
・言葉のできない差が能力の差と受け取り苛立ちを感じたり、<話し言葉>を簡単に習得できる他国の外国人との差に焦ったりする。その場合、自分の能力というよりは、日本語環境で育った日本人には、英語習得は容易でないということが当たり前ということを受け入れることが大切。

<子どもの場合>
・親との関係が強く影響される。

・子どもをサポートするために、親も充分サポートされていなければならない。

・日本人学校の子どもが英語の習得で悩みを訴えてくる時には、positiveな見方を促す接し方も効果的。海外生活を英語の習得という観点で捉えれば、日本人学校出身者はnegativeな方向に考えがちになっても当たり前。英語を話せないというところばかり焦点を当てて悩むのではなく、日本の学校とは違う体験を日本人学校ではしているという利点があるなど、positiveな所を本人が見出せるように話を持っていく。

●異文化適応には、その背景となる渡英目的も影響する。
自分からかー現実と夢とのギャップ。自分の意志で海外に来ているので、追い詰められても逃げ道がない。自分を責める。
第三者からかースポンサーの期待しているものと、自分の能力や達成度の間のギャップで苦しむ。
 
3.メンタルケア・セラピーへの英国と日本の意識の違い
・ セラピーやカウンセリングに関して、日本では、病理に対する治療という概念が強いのに対し、イギリスでは、自己開発的な要素が多分に含まれているので、自分を見つめながら変えていくという概念が強い。

・日本ではクライアントと専門家との意識のギャップがある。大学の心理学研究室や医学的な研究がたくさんなされているにもかかわらず、一般の人には、メンタルヘルスケアが何なのか、上手くつかめないため根付いていない。クライアントが実際感じている問題を研究者側が理解し分り易い言葉で受け止めることが大切である。

・ 英国の日本人コミュニティにおいても、両者のギャップを埋めるような活動が必要ではないか。
 
在留邦人のメンタルケアの状況
1.現在の臨床状況
今までの臨床の中で、学生が一番多くて約半数を占めており、駐在員とその家族そして地元職員は3分の1、国際結婚を含む移住者が4分の1、という具合になっています。また、20代から30代にかけての女性が多く来ます。

人種の坩堝、ロンドンで、さまざまな文化背景の方々のセラピーを行ってきましたが、文化によっても問題の特徴が異なってきます。その中で、日本人の特徴を述べるとすれば、親子関係に問題を感じている人が非常に多いことです。もちろん人間というものは、親との関係が現在の自分に多大な影響を与えることは間違いありません。しかし、多くの相談者は、親からの支えが昔からあまり感じられなかったという方や、親との関係の中で傷ついてきた自分がいるが、親に対し悪く思ってはいけないという道徳観から、自己嫌悪に苦しむ方もよく見かけます。その他に、凝縮されたイギリスの日本人社会で、他の日本人との人間関係に悩みを訴えてくる方も多くいます。

同じ日本人でも、身分によって、問題が異なることもあります。学生は、身分や生活が安定しないため、気持ち
が不安定になりがちで、自分を変えたいと思って英国に来たものの、英国での生活の中で自分を見失ってしまう方もいます。また、駐在員の家族では、いつ帰るかも分らないし、何かやろうと思っても中途半端に終わるのではないかと思い、なかなか始められない、そうすると、自分の存在が中途半端なものに思えてしまうという方や、日本ではできないことを英国でやろうと思って期待はするが、日本で充実してやってきた仕事を辞めてきた場合などには、イギリスでの活動範囲が狭まるので、生活が無意味に感じられる方もいらっしゃいます。国際結婚なさった方や移住なさった方は、英国の日本人以外の方との接触が多いため、日本人以外の人間関係の問題を抱えている方も多いです。

異文化接触により問題が発生することもありますが、もともと日本からの問題が悪化する場合もあります。他の少数民族などは、移民が多いため長期滞在、または、一生涯に渡り滞在するため、コミュニティを作ったり、宗教などそれなりに支えを見出したりしていますが、日本人の場合、短期滞在が多く出入りが激しいため、なかなか日本人コミュニティにも、支えを見出すことは容易ではありません。

日本人の場合、何か精神的に負担を持ったとしても、専門家を訪れるのが遅くなり、そのため症状も悪化するということもよくあります。一度傷ついた心は、日本に帰ったら治るというものではありません。

異文化で暮らす方のためのカウンセリングやセラピーは、起きた問題に対し、異文化接触という機会を上手く利用することにより、それをどのようにポジティブな力として将来に役立てていけるのかに焦点を当てています。自分の持っている価値観の中で空回りをする時には、ちょっと違った角度から、別の見方を取り入れてみるということは有効な手段です。英国という全く違う文化の中で、新しい価値観を取り入れることにより、何か自分なりの答えが見つけられるのかもしれません。その際、新しい価値観と古い価値観をただ入れ替えるのではなく、古いものでも大切なものは残しながら、新しいものを取り入れ、それらを融合させ、自分のものとしていくのです。これから日本に帰国なさる方にせよ、しばらくこちらにいる方にせよ、この英国滞在を意味のあるものとし、自分の成長と変化に繋げることは充分可能です。
 
2.将来の展望
アンケート調査の結果を見ても分るように、問題を抱え上手く解決できずにいる人が多いにもかかわらず、専門家の援助はなかなか利用しにくいようです。それには、メンタルヘルスという問題に対する認識が薄い、何をどのように解決していったらいいのか分らない等、さまざまな理由があると思います。それに対し、問題をお持ちの方が、もう少し認識度を高められるように、専門家の方でももっと利用しやすい環境を作っていくことが大切だと思います。

専門家の援助を必要としても来られない方がたくさんいます。そのため、臨床だけではなく、サポートグループや企業、学校、サブグループ内で異文化適応やメンタルヘルスに関するワークショップを開くなど、何か皆さんがより気軽に参加しながら認識を高め、予防にも役立つ活動を充実させていきたいと思います。
 
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 日保田 裕子 Tel:07958-213456 (日本語英語両方可)
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