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-海外で暮らす家族と共に -

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心身の発達に障がいがあり、特別な支援を必要とする児童・生徒の受け入れ一覧  

 
上記のリストはGroup Withが独自に調査・作成したもので、毎年更新しています。
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発達障害児と家族を支える会inフランス(A.S.A.T.F.J.)
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    最終更新日 2017年11月           

第7回  Group With  メンタルヘルスセミナー
 

子どもの心と健康:  異文化での生活と家族

 
 
  
講師  森野百合子氏
都立梅ヶ丘病院 医療援助科医長

日時 2009年3月19日
場所 東京ウィメンズプラザ
 
 
講師プロフィール
12年間に渡り英国に滞在。NHS(National Health Service)の医療機関に精神科専門医として勤務し、日本人の診療にも当たる。2008年1月に帰国。同年4月より現職。
 


 
バックグラウンド
●  家族療法について学ぶ為英国へ
●  その後数年間家族療法家として主に児童青年のためのクリニックで勤務
●  2004年から精神科医として児童青年のためのクリニックと入院病棟で勤務
  家族というレンズを通して子どもの問題を理解し、解決していく考え方
● イギリスで出産し、最初の数年間の子育てをした後帰国
  母親として、イギリスから日本へという環境の変化を経験
● 約12年ぶりの日本
  留守にしていただけに感じる日本の変化、特に家族を囲む状況の変化
 
 
 
英国では、家族療法を学んだ後、家族療法士として働き、その後精神科医として子どもや思春期の人のためのクリニックに勤務しました。家族というレンズを通して子どもの問題を理解し、解決していくという療法(家族療法)がイギリスの子どもの精神科ではよく使われているので、そういう観点からお話しします。

「家族療法」は家族や家族を囲む環境がそれぞれの人の精神状態にどう影響していくかという理論にもとづいています。この療法についての話が、実際に異文化との適応の過程にある方々への理解を深めるヒントとなり、また問題の解決方法を少しでも掴んでいただければ幸いです。


子供の心と環境

● 子供が情緒・行動の問題を示すとき考えられること:
・子供自身の問題(病気、発達障害、人格の問題)
・学校での問題
・家庭の問題:家族のストレス、家族の病気や死、親の離婚、家庭内暴力、失業、虐待
・地域での問題
・異文化への適応
・PTSD(天災、戦争)
 

子どもの情緒や行動の問題にはさまざまな要因があります。子ども自身の病気や発達の問題、性格の問題もありますが、それ以外に「いじめ」などの学校での問題もあります。帰国子女の場合、日本と外国との価値観や求められることの違いに戸惑ったり、そのことでいじめにあったりして問題行動が現れることがあります。

家族がストレスを抱えていると子どもは不安定になります。例えば、誰かが病気になったり亡くなったりするとか、両親の離婚、家庭内の暴力、父親/母親の失業、虐待などは子どもの気持ちに影響します。また家族が隣近所と仲が悪いことなども影響します。

異文化への適応も家族全体のストレスになります。例えば、日本式の子育てと外国で良いとされている子育てが違う場合、「ちょっと甘やかし過ぎ」と見られたりすることがあります。周囲からの「こういう風にしなさい」というアドバイスが、自分たちが考えていることと違いストレスとなったりします。
 
 
 
環境の問題や変化による子どもの心の問題
●  うつ:
女の子の方が症状がわかりやすいことが多い。男の子は問題行動(乱暴になるなど) で現れることがよくある
●  不安:
おちつきのなさとして現れることがある
身体症状(腹痛、頭痛、下痢など)として現れることがある
● 行動や振る舞い態度に変化があったら:気をつけて、話を聞いてあげることが大切
 
 
具体的には次のような症状が現れることがあります。
よく見られるのはうつで、女の子は気持ちを素直に表現するように育てられることが多いので、わかりやすいです。元気がなくなる、めそめそするといったことが見られると周りも落ち込んでいるということに気付きやすい。男の子の場合には、「急に乱暴になる」とか「おちつきがなくいらいらする」とかいうかたちでうつ状態が現れることがあるので気をつけなければいけません。
おちつきのなさが不安のサインとなることもあります。おちつきのなさから多動性障害を疑い、よく聞いてみたら家の中に問題があって不安になっていたということもあります。お腹が痛い、頭が痛い、下痢などの身体症状として現れることもあります。行動や振る舞い、態度に変化があったらよく話を聞いてあげることが大切です。
 
 
環境(家族等)が子供の心に与える影響: リサーチからの報告1

パターソンの “威圧的家族プロセス”(1982)

●  子供の反社会的行動は、主に”威圧的家族プロセス”の結果
●  3つのプロセス(この3つがそろうと威圧的家族プロセスができてしまう):
  1. 家族の誰か(親など)が子供にどなる(”嫌な行動を起こす”)
  2. 子供は、泣きわめく、怒鳴るなどで反撃(”嫌な行動で反撃”)
  3. 最初に嫌な行動を起こした大人(親など)が引きさがる
  大人が引き下がると子供も反撃(嫌な行動)を直ちにやめる 
●  威圧、強制のサイクル, 悪循環
 

80年代にアメリカのパターソンが行った研究があります。ビデオやテープレコーダーに様々な家族のやりとりを記録し、分析した結果から、「威圧的家族プロセス」という考え方を提案しました。「このプロセスが家族内に存在していると、子どもは問題行動を起こすようになる」という3つのステップからなるプロセスです。

威圧的家族プロセスの下では子どもは親に嫌なことをされた時には自分も嫌なことで反撃すれば大人は引き下がるという学習ができてしまいます。大人は自分が引き下がれば子どもも引き下がるという学習ができ、反撃してきた時は引き下がった方が楽だと考えます。子どもも言い返せば大人が引き下がると知っているので、悪循環となっていきます。子どもの問題行動や乱暴な行動を家族がそれと気がつかずに教えてしまっているという研究報告です。


●  Pattersonの威圧的家族プロセスの理論や学習理論から多くのペアレントトレーニングプログラムが生まれた。 その基本は:
●  子どもが従うルールを明確にし、確立する
●  社会的によい行動にプラスの刺激を与える
  例:Star Chart (頑張り表)、トークン
● 良くない行動で無視できるものは無視する 
●  緩やかな罰の与え方 (例: タイムアウト、特権を一時的に奪うなど) 
●  合意を得る方法、うまくいかないときにどうするか 等 についても教える
 

威圧的家族プロセスの理論に基づいて多くのペアレントトレーニングプログラムがアメリカで生まれました。基本は、子どもが従うべきルールをはっきりさせて確立する、社会的に望ましい行動にはプラスの刺激を与えるということです。がんばり表を作って、望ましい行動をした時にはシールを貼ってやり、シールがたまったら小さなご褒美、たとえば本を一冊読んでやるなど子どもの喜ぶことをしてやることで、その行動を強化していきます。

どうしても無視できない行動については穏やかな罰の与え方をしましょう。静かに考えられる場所に送りこんで、2,3分ぐらい頭を冷やさせたり、テレビを見る時間を減らしたりします。このような方法を教えるペアレントトレーニングがアメリカでもイギリスでも盛んに行われています。

特に多動性障害・ADHDなどの発達障害などのあるお子さんの子育てにはお子さんの特長に応じ特別工夫したやり方が必要です。

ここで大事なのはよい親子関係が成立していないと、どんなトレーニング、どんな育て方をしてもだめだということです。子どもとの遊び方をまず教えて、親子で楽しい時間を持てるようにすることを最初の課題にするペアレントトレーニングもあります。「子どもは自分との関係をきちんと成立している人」の言うことしか聞かないといいますが、私もそう思います。


 
まとめると

● 子どもはたくさんほめられることでよい行動を学ぶ
● たくさんほめられることで、自信をつけ、よい自己評価をもてる
●  今起きていることは、そのときに対処:昔のことをもちださない
● よくない行動をしたときも、親が感情的にならずにすむルールを作っておく
● 感情的に叱った内容は子どもの頭に入らない
 

できたことだけではなく、努力しているということ、我慢しようとしていることを褒められると自信になります。環境が変わって今までできたことができなくなった時、不安になっている時にはたくさん褒めてあげるといいと思います。

親が感情的になってしまうと色々なことがうまくいかなくなるので、そうならずに済むルールを作っておきます。タイムアウトということで、子どもから離れて静かな所で少しの間、口を利かないと親も頭を冷やせます。子どもはもちろん、親も感情的にならないようなルールがあると親も子も楽です。

感情的に子どもを叱ると、子どもは「お母さんやお父さんは自分のことを嫌い」とか、「駄目な子だと思っている」といったメッセージを受け取ってしまいます。叱られた内容は頭に入ってきません。そういう意味でタイムアウトは有効な方法だと思います。
 
 

環境(家族等)が子供の精神衛生に与える影響: リサーチ2

● 子供の精神障害を引き起こす可能性のある危険因子に関する多くのリサーチでは:
→学校、居住地域、家族、友人に関する問題を危険因子として報告している。(Ford 等、2004, Rutter 1995 etc.)
●  一方で、このような危険因子から子どもを守る保護因子も報告されている
●  家族のもつ能力・底力(リソースともいう)や家族の持つ支援ネットワークも重要
 
 

子どもの精神科の領域では精神障害を引き起こす危険因子に関してたくさんの研究がなされています。

危険因子がある一方保護因子もあります。例えば、片方の親が虐待のような扱いをしても、誰か信頼できる大人と良好な関係が成立していると、その子どもが将来ちゃんとやっていける可能性は増えると言われています。家族の持つ能力、底力、子どもの持つ能力、底力も一緒に考えていかなければなりません。困っているお子さんや家族をサポートする時やアドバイスをしてあげる時に、その家族の長所や得意なこと、どんな支援のネットワークがあるかなども聞く必要があります。
 
 
 
子供と大人

●  子供も大人も環境が精神衛生に大きな影響を及ぼす
●  子供は大人のように環境を変えることができない
● 外国への移住、外国からの帰国:大人も新しい環境に適応しなければならなくなる
 
 
新しい環境には焦らずにそれぞれのペースで適応していくというゆったりとした構えができるといいと思います。競争社会で生きている日本人は、他人と自分を比べたり、早く適応するのが偉いように思う傾向がありますが、のんびりの良さもあります。のんびりでなくては見えてこないこともあるので、それぞれのペースでやっていくという気持ちでいいと思います。
 
 
 
環境が子供に及ぼす影響

●  発達(身体的発達、心理的発達)
●  行動(行動の規範、心理的問題から生じる問題行動)
●  情緒(友人関係、家族関係)
●  身体的健康
 
子どもがあまり刺激を受けないで育つと心理的発達に影響しますが、不安が強いと心理的発達が遅れることもあります。また毎日落ち着かないと、ご飯もたべられない、体も大きくならないなど身体的な発達にも影響します。行動面、情緒面、身体的健康にも色々な影響が及んでいくのは子どもも大人も同じです。
 
 
 
環境が子どもの家族・親(大人)に及ぼす影響

●  健康 (精神的、肉体的)
●  子どもとの関係
●  他の家族との関係
●  自信・将来の希望
●  孤立
●  仕事:言葉、コミュニケーションの問題、慣れない習慣、職場での人間関係
●  小さな日本人社会
 

大人の場合、環境は心身の健康や子どもとの関係に影響します。両親の調子が悪いと子どもとの関係もうまくいかないというのはよくあることです。他の家族や親戚とも良い関係が持てなくなることもあります。うまくいけば自信もつくし、将来の希望も持てますが、毎日八方塞がりとか、職場での人間関係が不安定だと色々なことが嫌になったり孤立したりします。

新しい環境で仕事をする時、異文化の中でやっていく時には言葉やコミュニケーションの問題もあります。今まで10分でできたことが何倍もかかってしまう、習慣も違って、こうしたら良いと思ってもその努力が認めてもらえない。日本では協力してやっていくことが大事ですが、外国では「人の意見ばかり聞いていて、自分の意見がない」と扱われることもあります。慣れない習慣、職場での人間関係に躓くと、当然心に影響が及びます。企業の派遣などで外国に行く場合、現地の狭い日本人社会の中では困っていることを誰にも相談できなかったり、上司に話が筒抜けになってしまったりという辛さもあります。
 
 
 

子どもの環境とその影響を考える時に:システミックサイコセラピー(家族療法)
―家族療法の基本概念、理論、技法


家族療法(呼び名について)
アメリカ
●  Family therapy(ファミリーセラピー),
●  Family and Marital Therapy (ファミリー・アンド・マリタル・セラピー)
イギリス
●  Family therapy(ファミリーセラピー)
●  Systemic psychotherapy(システミック・サイコセラピー)
 
 
同じ家族療法ですが、その呼び名はアメリカとイギリスで少し違います。

 
 
家族療法とは何か
● 正式名:システミック・サイコセラピー
● 精神療法(患者さんの話を聞くこと、患者さんと話すことで、精神的な問題を解決する治療法)のひとつ 
● 問題は、個々人の内部にあるのではなく、個々人の人間関係、さらには、個人を囲む環境などから生まれてくるという考え方
● 組織間の相互関係、会社等の組織内での人間関係、新しい組織作りを考える上でも使われる
● Linear Causality(原因結果説) から Circular causality(循環因果説)へ
 

 

家族療法とは、問題は個々人の内部にあるというよりは、周囲との人間関係や環境にあるという考え方です。

最初に原因があって、結果が起こるという一般的な考え方がLinear Causality(原因結果説)です。原因があって結果が起き、その結果がまた原因を引き起こして結果へと繋がり悪循環を起こすというのがCircular Causality(循環因果説)です。
例えば、夫婦喧嘩をして、夫は「お前が口うるさく言うからつい休みの日にゴルフとかに行く」、妻は「あなたが外に出てばかりで家や子どものことを手伝ってくれないから口うるさくなる」と平行線の話になったりします。その時に、どちらが原因か結果か分からないがどちらも少しずつ変えていこうという考え方をします。

 

 
 
特にこじれた子どもや家族の問題を考える時に非常に役に立つ考え方です。

 
お互いに両方向で影響を受け合っています。
 
 
 
 
Case:英国移民のティーンエージャーの少女 
●  イギリス居住の移民の両親の元に生まれ、イギリスで生育
●  学校の成績が良く、本人は進学希望
●  両親は自国の伝統を重んじる移民1世
●  一年前にお見合いの為に帰国させられる
●  その後、拒食症を発症
●  治療で軽快。しかし…..
●  イギリス人治療者のジレンマ
 
文化がどれくらい子どもの問題に影響を及ぼすか、日本では余り身近に感じる例はないと思いますが、英国移民の少女の例をお話しします。 学校の成績がよく進学を希望していたこの少女が、お見合いの為、1年前に両親の故国に帰国させられた直後に、少女は拒食症となりました。
その後英国のクリニックで治療をして良くなっても、両親の国に行き再度の結婚話が出てくるとまた具合が悪くなりました。拒食症が結婚やお見合いなど自分が望まない将来を拒否するための手段となっていると考えられました。イギリスの治療者は他の文化を大事にするというトレーニングを受けていますので、このことで大変悩み、議論になりました。結論としては、この少女の両親の国の文化を尊重しなければいけないが、この少女はイギリスで育っていることから、「女性も学問をどんどんしてよい」というのも彼女の文化の一部であり、彼女の両親の国の文化だけが彼女の文化ではないと考えました。イギリスと少女の両親の国の文化の間でバランスを取って考えながらこの少女にとって何が自分の文化であるのかを考え治療していけばいいという結論に達しました。
 
 
家族関係を考えるのに有効な概念

Family life Cycle(ファミリー・ライフ・サイクル)
● 家族は時間につれて変化する
● 家族がグループとして変化する為に、家族員の間で互いの変化/交渉や話し合いが必要となる変化の時期がある
●  a. 独立した大人 
●  b. カップルになる 
●  c. 最初の子供の誕生(親になる)
●  d. 次の子が生まれる
●  e. 子供の学校入学
●  f. 思春期
●  g. 親が中年になる
●  h. 子供が家を去る
●  i. 加齢/死
 

これはエリクソンという人が言ったLife Cycle(ライフサイクル)という考え方を家族に当てはめたものとも考えられます。
家族は時間に連れて変化するもので、一つのレベルから次の段階へ移る時に家族の在り方は変わっていかなければなりません。うまく変化するための家族員の間の話し合いや交渉などが必要になる変化の時期というものがあると考えます。
文化によっても違いますし、色々な家族の在り方があり、結婚しない人もいるので、この Life Cycleが絶対ということではありませんが目安にはなります。

こういう変化の時に、大きく環境を変えるような出来事、例えば日本から外国に行って住む、外国から帰ってくるということがあると家族の持つストレスは大きくなります。このように家族のライフサイクルが変化する時や、家族全体に大きな変化が起こるときには注意が必要です。

子どもを囲む家族とその環境の図です。この玉ねぎの形をしたものが、周りの影響を受けながら時間と共に左から右へと動いていって、徐々に玉ねぎの形が変わって行くという考え方です。それぞれの家族に独特の変化のパターンがあります。また父親が突然病気になったり等予想外の出来事でもこの玉ねぎの形が急に変化します。外国という異文化の環境に行くということもこのような急な出来事の中に含まれます。
 
 
家族関係を考えるのに有効な概念2
●  Structure (構造):
家族内の力関係、家族内のグループ誰と誰が仲がよいか、協力しているか
● Boundary: 親の機能、子供の機能などの家族内のグループ分けの境界線
● Hierarchy(ヒエラルキー)
●  Genogram(家系図 )

家族には誰がいて、誰と誰が仲が良いか、誰が決定権を持っているか、家族内にどんなグループがあるかということを示しています。
Boundary グループの境目が明確かどうか 
Hierarchy 誰が、どこのグループが決定権、力を握っているのか



家系図の書き方は上記のようになります。

ではここで、家族を考えるときに家系図がなぜ役に立つのか実際の例で見て行きたいと思います。

よく聞いてみるとこの家には夫婦と子どものほかに、母方のおじいちゃんが同居し、おじいちゃんとお母さんは仲が良く、お孫さんとおじいちゃんも仲が良いことが分かります。そのことから、おじいちゃんはお嬢さんの問題をサポートすることができると考えることができます。

同じように夫婦と子ども一人の場合でも別の家族でこんな場合があります。お父さんは単身赴任、お母さんと近所に住んでいるお姑さんは仲が悪く、いつも喧嘩状態。この場合二つの家のお嬢さんの状態にそれ程違いがなくてもこの家庭の方が大変さの度合が高いと考えられます。周りの人間関係なども聞いていくと色々なことが分かってきます。


ではここでもう1つ、家系図が役に立つ例をお話しします。

 
 
●  Aは、母が常に過保護であることに非常に不満を持っている。それまでは仲の良い母娘であったが、Aが中学に進学してから、口をきかず、一緒に歩くのもあからさまに避けるようになった
● Aの母Bは、5人姉妹の末っ子
● Bの父は、Bが幼いときに亡くなり、その後家族はBの父の実家である地方の農家に住んだ。Bには父の記憶はない
● 同時に、Bの父方の叔母2人も、離縁して、娘をつれて同居していた

 
(上記の母Bの家系図をみて、同居している人を囲んでみると)女性が10人一緒に住んでいたということがわかります。男手の必要な農村で、女ばかり10人肩寄せ合って生きているというかなり周りからは浮き上がった状態であっただろうとわかります。母親Bさんはこの10人の中の最年少で皆から心配され過保護に育てられた。これがわかった時、娘のAさんは母Bさんのことを理解するようになりました。
 
 
心の問題と家族の構造
●  Structural Family Therapy(構造派家族療法)では:
●  家族員が心の問題を示すとき、その家族構造に問題があると考える
●  家族員のヒエラルキーやバウンダリー(家族内のグループ間の境界)に注目
● 治療:家族の構造を変えること
 

家族の誰かが心の問題を示す時、構造に問題があると考え治療していくのがStructural Family Therapy(構造派家族療法)です。家族のバウンダリー、つまり家族内のグループ間の境界や 、ヒエラルキーに注目して家族構造を変えてくことで心の問題を解決していきます。

亭主関白の夫、乱暴で教師の言うことを聞かない7歳の男の子がいます。
その子は父親と仲良し、母親と5歳3歳の妹が仲良しで、男が女より上という状況が分かりました。母親が権威を持って子どもに注意できるように父親に必ずバックアップをするようにしてもらうことで、7歳の息子に母の親としての権威を理解させて行くのが、構造派家族療法の考え方です。


Family Belief (家族の物語)
● 数世代にわたる家族の物語、家族に起きた出来事の影響
● 例:夫がうつでクリニックにかかった夫婦
● 妻の祖父母、曾祖父母の話をしていくうちにわかったことは、5世代続けて、男性(夫)はすべて怠け者でビジネスを失敗させ続けてきた家系
● 妻の無意識の予測と恐れ
● 夫は、妻に尊敬されていないと感じてうつに


家族代々伝わる家族の物語やその家族に起きた出来ことが皆の気持ちや行動に無意識または意識的に影響しているという考え方です。

夫婦それぞれの家族の話を何世代にも遡って聞いたところ、妻の方は5世代続けて男が皆怠け者で女性がやりくりしてきた家系ということが分かりました。妻は結婚して夫に何も期待しなくなって、何もかも自分で決めてきました。夫は妻に尊敬されていない、自分を大事にしてくれないと不満を持っていました。この状況が分かったのち妻の態度が変わっていき、それにより夫も変わっていきました。一見関係ないようですが、家族の物語は皆の気持ちに影響を及ぼします。


 
家族の物語2 または家族パターン
● 父や母が心配性だと、子どもも心配性になりやすく、その孫も心配性になりやすい (子どもは父母の態度から”世の中は怖い”と習う)
● 皆、自分の親から、”親としてどのように行動するか”を習い覚える (子育ての仕方 が代々伝わっていく)
● 夫婦の役割分担なども、親の代から子の代へと伝わっていく

Narrative Therapy
● 人は皆だれでも自分についての物語を持っている
● その物語は、他人との関わりや会話のなかで作られていく
● その物語(=自分自身をどうみるか)を変えていくことで、問題を解決していく
● 異文化との遭遇:自分の物語の混乱


誰でも自分についての物語を持っていますが、それは人との関わりの中で作られていくものです。物語とは要するに自分自身をどう見るかということですが、見方を変えていくことで抱えている心の問題を解決していきます。

異文化との遭遇は、これまで自分に対して持っていた『自分はどんな人間か』という考え方、物語の混乱と考えられます。これは逆に言うと新しいチャンスにもなり得ます。これまで考えられなかった新しい自分像、自分について知らなかったことに気づき、新しい自分のイメージが産まれる可能性があります。何か大変な問題が起きて困った時というのは、同時に変化へのチャンスであるとも言えるのです。


Narrative Therapy の例
Sneaky Poo (ずる賢い”うんちくん”)
● 遺糞症の男の子A
● 大便のおもらし+時には便を部屋に塗りたくってしまう
● 父母の付き合いはこの為極端に狭まっている
● 母はうつ
● いくら注意しても治らない


日本ではあまり見られませんが、イギリスには「遺糞症」と言って、トイレのトレーニングがうまくいかなくて漏らしてしまう子どもが多く見られます。そのための専門クリニックもあります。長引くケース、悲惨なケースもあります。

イギリスは5歳から学校が始まるので、早くからトイレのトレーニングを終わらせておかなければというプレッシャーが強く、2歳ぐらいからトレーニングを始めることも多いです。うまくいかないとトイレが親子の戦場となり、ますますうまくいかなくなります。ほとんど虐待のような状況となり、母親はうつになってしまうということもあります。
 
Sneaky Poo (ずる賢いうんちくん)(2)
(例)11歳ぐらいの男の子。母親はうつになり、投げやりになっている状態
セラピストが最初にしたこと:
A君に
“君をだまして、油断したすきにおもらしさせてしまう怪物の、”ずる賢いうんち君”をどうやって退治するか一緒に考えようと言った。
母や父に協力もあおいだ。
ずる賢いうんち君のトリックについて考えた
どうやってうんち君の裏をかくかを考えた
うんち君の絵を書いてもらった

 

Sneaky Poo (ずる賢いうんちくん)(3)
治療の技法から説明すると:
● Externalization(問題の外在化)
● 問題がA君の中にあるのではなく、A君自身と問題とは分離した別のものであるとの認識の確立
● A君も父母も共に被害者であることの確認
● 父母もA君も問題をなくす為に協力できるようにした
● 拒食症の治療にも役立つ考え方


A君も両親も共に被害者であるとして、親子で協力するようにしてもらいました。「ご飯の後にうんち君がわなを仕掛けてくるから、食後にトイレにいって頑張ってみよう」と言うと、すんなりトイレに行けるようになりました。
問題を本人と切り離してあげることが、特に子どもの場合には大事だと思います。これは拒食症でも役に立つ技法です。
 
 

10年ぶりの日本
● 1996年夏から2008年1月まで在英
● 日本では小泉内閣
● イギリスでは保守党政権が倒れて労働党政権への交代 (ロンドン市長も革新)
● 帰ってきて見て:とても不安定で安全の為のセーフティーネットの無い社会
● 一寸先は闇?
● 皆が自分のことで精一杯


10年で随分日本が変わったように感じます。久し振りの日本は不安定で、安全の為のセーフティーネットがないように感じます。皆が自分のことで精いっぱいという印象です。忙しくなり、皆がイライラしているようです。先日、通りすがりに、子どもがちょっと文句を言ったことに対して、親が血相を変えて子どもにつかみかかるのを目にしました。親に余裕が無くなってしまっていることを感じさせられました。

 

家族を囲む環境と、いわゆる“難しい家族”の問題
● 学校の先生方が保護者との関係で対応に苦慮すること例の相談:多くが1人親家庭、特に母子家庭
● 日本で母親として子どもを育てることの大変さ (社会にシステムがない)
● 日本の子供の貧困率:世界の中でも高い方
● 貧困:1人親家庭、特に母子家庭の貧困
● 一人親家庭の就労率:OECD諸国30カ国中4位と高い
● ひとリ親家庭の貧困率:OECD 諸国30カ国中2位
=ワーキングプアが多い


梅ヶ丘病院でも学校の先生から色々相談を受けることがあります。保護者との関係で対応に苦慮するケースの相談に乗りましたが、一人親家庭に関することで困っている場合が多いという話でした。自分自身も含めて、日本で仕事を持つ母親が子育てすることは、とても大変だと感じています。父親の多忙と不在、父の親としての責任などの問題には触れずに、母親が子育て上の全ての責任を持つかのように、母を責める社会の風潮で大変だと思います。

阿部彩著「子どもの貧困」(岩波新書)より 
日本の子どもの貧困率が高くなっています。特に一人親家庭、母子家庭の6割は貧困レベルにあります。母子家庭の就労率は90パーセントでOECD30カ国中4番目に高いですが、貧困率は30カ国中2番目、一生懸命働いているのに貧困になるという状況です。

 
 
家族の形の変化:日本 
● 婚姻率:緩やかに減少傾向:
  1980年6.7 → 2007年概算5.7
● 離婚率 1980年1.22→2007年概数2.2
● 離婚に対する意識の変化(離婚の許容度)
  離婚は間違っているとする人:
   90年には58.2%→2005年:33.2%
  離婚を認める人:90年:32.9%→2005年:60.2%
● 出生率:継続して減少傾向
 1975年以降2.00を切り、2005年:1.25, 2007年に多少回復して1.36
 (しかし諸外国と比較して依然として低い
● 離婚すると:母子家庭は貧困、長時間労働等の問題

 
日本では、女性の賃金が男性より低いことも大きく関係していると考えられる。
婚姻率は減少、離婚率は少し増えていて、離婚についての考え方も変わってきています。父子家庭や母子家庭で、貧困や長時間労働の問題で子育てのストレスや問題が生じやすい社会の仕組みになっています。出生率も減少しています。出生率が1.3人ということは誰にとっても子育てしづらい世の中であることの反映と言えるでしょう。
 


家族の形の変化:英国
● 1972年をピークとして以後結婚の数の減少
● 再婚の増加:2006年には再婚は総結婚数の39%
● 初婚:1942年:総結婚数の91% →2006年には61%
● 離婚率:1971年(結婚1000組に6組)
 から上昇傾向、2006年にピーク(12.2)で2007年11.9
● 一人親家庭の増加:子供総人口の約25%(9割:母子家庭)
● 同棲未婚の両親と住む子供の増加
● 結婚している両親と住む子供は37%(2006年)
● 出生率(合計特殊出生率)2001年の1.63以後6年連続増加、2006年:1.83


イギリスでは結婚数は減少、再婚が増加しています。結婚数の4割が再婚で、離婚率も増加傾向です。一人親家庭も増えています。子供の25パーセントは一人親家庭、その内の9割は母子家庭です。未婚で同棲している両親と住む子どもが多く、結婚している両親と住んでいる子どもは全体の37パーセントしかいません。出生率は増加しています。結婚してもしなくても社会的不利益を被らないので、どちらでも変わりはないと考える人が多いようです。


異文化の国に移り住むと言うこと
● マルタ人(地中海人)がロンドンに住んで
● 連合王国人
● アフリカ人、ジャマイカ人が、”叔母さん”と言ったとき
● 2人の日本人
● 異国に住む経験も、その異国の環境によって大きく違う
  ロンドンの国営医療機構で働くと言うこと
● イギリス人とアメリカ人


ロンドンに住んだマルタ人が大変な思いをしてうつになったケースです。ラテン系の人は陽気で動作も大袈裟ですが、イギリス人は感情を外に出さないし、友達になるにも時間がかかります。また回りくどい言い方もします。そういったポーカーフェイスのイギリス人の中で苦労をしました。

イギリスは連合王国で、植民地だったインドやパキスタン、アフリカから移住してきた人達がいます。ですから、ブリティッシュといっても生粋のイングランド人ばかりではありません。ロンドンで働いていた時、日本人の自分もそれほど珍しいとか違うとか言われることはなくごく普通に見られ、受け入れられ、働くことができました。一方で田舎に住んだ場合、地域によっては日本人は目立ちます。イギリスの戦勝記念日に日本は第2次大戦での敵国で、英国人捕虜にたいしてひどい扱いをしたということで退役軍人にらまれたこともあります。異国に住む経験も、同じ1つの国の中でも場所や地域によって違ってきます。

イギリス人はどちらかというと引っ込み思案で壁を作りがちですが、アメリカ人はフレンドリーではっきり物を言うので、図々しいとか馴れ馴れしいとイギリス人は感じることがあるようです。イギリス人にとってアメリカ人との文化の違いは、他の文化との違いよりも大きいかもしれません。


社会や文化は子どもに影響を及ぼしますが、子どもや家族の方からも影響を与えていくことは難しいけれどできると思います。


“文化””異文化”とは何か?
異文化による問題とは何か?
● 移民の1世、2世、3世の問題
● 「若いもん」と「年寄り」の問題
● 人種差別の問題
● 価値観、習慣の違いや、そのことに無知であることから生じてくる問題
● では、同じ国からきた同じ人種は、価値観や習慣が同じなのか?


移民の1世、2世、3世では文化が違います。おおまかに言ってしまえば1世はもともとの文化を持ち、2世は新しい土地の文化も併せ持ち、3世は新しい土地だけの文化を持つ傾向があります。これらの間の軋轢もあります。

若者と年寄りにも世代間で考え方の違いがあります。人種差別の問題も起きます。外国に行くと価値観、習慣の違いがあり、相手の価値観や習慣を知らないことで問題が生じます。私は、完全に100%理解したのでなければ、分かったようなことを言ってはいけないと教育されたせいか、イギリスで言葉の問題があって少しはわかっていても100%分かることが少なく黙っていて、全く何も分かっていないと思われてしまって困ったことがありました。そこで、全部分かっていなくても、何かしゃべるように努力したところ、今度は極端に良い評価をうけるようになりました。とにかく何か言えば評価される国と、いい加減なことを言うと評価されない国の違いは大きいです。また同じ国からきた同じ人種でも価値観や習慣は必ずしも同じではありません。

 
文化についての考え方
これはハリコフの考え方です。
● 文化についての考え方の4つのタイプ
● Universalist :全ての家族や人間関係は基本的に同じ
● Particularlist: 個々の家族は全てユニークなので文化や国でひとくくりできない
● Ethnic focused: 個々の家族は文化によってそのあり方が違うので、それぞれの文化での家族のあり方を知らなければいけない
● Multidimentional : “文化”にはいくつかの層や、方向性がある。また1人の人間は いくつもの”文化”に属する

Multidimentional な文化の定義
以下のうちのいくつかの状況に身をおいていることから生じる、世界観、物事の意味付けや、行動
*都会/田舎/郊外 *宗教 *性的嗜好
*言語   *国籍 *政治的意見
*年齢や生まれた年代*社会的階層
*性別   *雇用 *移住の段階
*家族構成  *教育 *文化の喪失の程度
*人種、民族  *職業
  


多次元的な文化の考え方によると、それぞれの人が、年齢、性別や、教育などにより、複数の文化を持っていると考える。従って、ある日本人と英国人が共通の音楽の趣味があれば、音楽の点ではこの2人は文化を共有すると考えられる。

 
文化、異文化、異文化適応を考えるときに役に立つコンセプト
Multidimentional Comparative Framework
=多次元(多方向性)の比較の枠組み
以下の4つの指標から、その家族の文化について考えていき、比較する
1. 周囲の環境
2. 移住と文化喪失(acculturation)
3. 家族構成、家族のありかた
4. 家族のライフサイクルの段階

異文化適応の例
● 外国勤務
● 外国から帰国
● 国際結婚 (家族内の複数以上の文化)
● 移住:1世、2世、3世の違い

● いずれの場合も家族の一員それぞれの状況、性格などで、異なる反応を示すのが普通


家族としてはまとまって動いているかもしれませんが、立場も違い、家族それぞれの直面している状況が違います。別の反応を示すのが普通で、家族員それぞれの属する文化に応じて考えなければなりません。

 
模擬ケース
● 30代半ばの夫婦と8歳の男の子
● 元は名古屋在住。2組の祖父母が近くに住み行き来がさかんであった
● 夫婦ともに高学歴。職場結婚で妻は結婚退職
● 夫の仕事でヨーロッパに転勤
● 子どもは現地の公立小学校に転校
● 夫の仕事が忙しく、慣れない土地で妻が孤立
● 言葉の問題があり、小学校のほかの親ともなかなか親しくなれない
● 妻のうつ状態、子どもの問題行動

模擬ケース;夫と妻の属する文化
夫:都会人、日本語(英語少し)、30代、中流クラス出身、大企業の管理職、高学歴、移住の段階:新
夫の持つ人間関係=会社、地域(近所)
妻:都会人、日本語、30代、中流クラス出身、主婦、高学歴、移住の段階:新
妻の持つ人間関係=近所、子どもの学校関係

 
模擬ケースの異文化適応
1. 周囲の環境:ロンドン郊外、容易には友人がつくれない
2. 移住と文化喪失の程度:激しい。近くに友人もいない。どこで何を買っていいかもよ くわからない
3. 家族構成、家族のありかた:東京では得られていた親戚や祖父母からのサポートが無くなった
4. ライフサイクルの段階:子どもはまだまだ親の介入と保護を要する


異文化に適応する過程にある家族の相談にのるときの私たちの役割は、たくさんの方法の中から、その家族に適した答えを探すお手伝いをすることです。一般論としては孤立しないこと、ネットワークを作ること、助けを求めること、夫婦で助け合うことが大事です。
 また、日本人は頑張り過ぎの民族なので、頑張り過ぎないことです。それから、他人と比較しないこと。日本人はすぐ競争モードに入りますが、赤いバラの花と白いユリの花が競争しても意味がありません。それぞれの個性でやっていけばいいと思います。
 

まとめ
● 子どもの心の健康に家族や家族を囲む環境の与える影響は大きい
● 異文化との適応を考えるとき、適応のプロセスに個人差がある。これも個性
● 時間がかかってもあせらない

日本にいても外国にいても、家族や家族を囲む環境は子どもの心の健康に大きな影響を与えます。異文化との適応のプロセスには個人差があります。絶対正しいという方法はなく、その人個人に合った方法でお手伝いをしてあげるということが私たちの仕事だと考えています。それぞれのプロセスに時間がかかっても、時間がかからないよりもいいこともあります。悪いことばかりではないという見方も大事で、それぞれの個性を大切にしながら、少しのんびり構えてあげるといいと思います。


第7回Group With メンタルヘルスセミナー 講演録  (作成 Group With)
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Q&A

Q1. 家族の様子をビデオ撮影する時、撮られることを意識してしまうということは?

A
 部屋の隅の方から数日間かけて撮ると思うので、短時間なら意識してしまうこともあるが、そのうち気にならなくなるのではないか。何気なく座っていて、気にしないようになるまで待つというやり方だと思う。


Q2 帰国して、今現在の小中学生について感じたことは?

A 渡英する前に子どもの相談を受けていなかったので個人的な感想になるが、毎日、塾や勉強で大変だという印象。もう一つは非常に携帯電話やパソコン中心の生活になっているのが心配。中高生に「小さい時どうでしたか?」と聞くと「習い事が多くて、友達と遊ぶ時間が少なく、人との関係に問題があったかどうか分からない」という答えが非常に多い。人とのやりとりがない文化になってきていることが心配だ。電車の中でも携帯をしている人が多く、びっくりした。


Q3、家族療法ではまず子どもと話しをするのか、家族というかたちでするのがよいのか?

A  日本ではあまり正式に家族療法をするチャンスはないが、今入院病棟で子どもと話をすると、家族の問題が大変に多いので、できれば家族全員で話をするのが大事だと思う。「本人の前で言えないので、別に話しをさせてください」という親ごさんが多いが、実際に話を聞いてみると「どうしてそれを本人の前で言えないのか」の理由があまりはっきりしないこともある。一度は全体での話し合いの時間もとるようにしている。子どもから問題提起があって病院に来るということは非常に少ない。自分は問題ないと思っているが「親が言うから来た」ということが多いが、全体のセッションの中で子どもに「でも困っていることはないの」と聞くと、「あんまり怒られたくないかな」とかいう言葉が出てきたりする。それを取り上げながらやっていく。
子どもたちに影響があっても、夫婦の問題の場合は適切ではないので子どもとは別のセッションを行う。虐待を受けていないかについての情報は子どもからさりげなく取る。家族内で、たとえ言いにくいことであっても話せる雰囲気を作り上げることも大切で、そのために、全体で話をするチャンスをもうける。必要に応じて分けてやるのは悪いことではないが、どこに問題があるのか、どこが一番変わって欲しいかということでケースごとに違ってくる。


Q4 長年海外に住んで帰国した場合には日本の社会に溶け込めなくて悩む家族もたくさんいると思う。海外では父親もある程度時間的余裕があるが、日本ではどうしても忙しく、母親と子どもだけになってしまう傾向があると思うので、帰国してからの苦労について聞きたい。

A 帰国後の苦労は大変ある。イギリスの知り合いから言われたが、re-entry shock(再入国ショック)というのがあって、個人差はあるが、少なくとも少し落ち着いたと思えるまでに少なくとも海外にいた期間の10パーセントの期間がかかる。その間は本当に大変で、それを過ぎると少し落ち着くが、まだ大変。日本に帰国してからは「日本人だから知っているのが当たり前だ」と思われがちだが、実際には、自分が日本にいなかった間にはやった言葉や、起きた事件など何のことかわからず、苦労することも多い。自分の経験から見ても、今10パーセント経ったところだがとてもまだ落ち着いたと言えない状況で、このような時期には周囲からのサポートが必要だと思う。特に、海外の学校では自分の課題を自立してやるが、こちらではみんなで一緒に座って、同じことを同じペースでやっていかなければならない。そういったことになかなか適応できなくていじめられたり不登校になったりする場合がよくある。働いているお父さんが忙しくても、できる範囲でいいから時々電話で話したり、週末でも月に一回ぐらいでも、お父さんの協力を経て、子どもさんの現状を伝えながらやっていくとよい。


Q5 不安定な時に、祖父母もいない、友人もそばにいないという状況で、親にとっても、不安定だけどこれがあると助かるということがあるか。

A  その人の好きなこと、リラックスできること、楽になることが何かということを探してあげるということはとても大事だと思う。まじめで自分のことに時間を使うのは悪いことだと思っている人が多いが、母親が毎日幸せでにこにこしてないと子どもは辛い。「子どものためだと思ってそういう風にしてください」とお話していくと、はじめは何もないとおっしゃっていても「こういうことが好きだ」と思いつかれることがよくある。好きなことを通じて現地の人との人間関係に広がって行く可能性もあると思う。


Q6 何か症状が出て、本人なり学校や周りが気づいて診療を受ける場合、家族療法と何かと併用して治療は進むのか。

A  場所によるがイギリスでは心理的療法が重視されていて、普通の公立クリニックでは薬はあまり使わない。心理テストも必要なら行い、話を聞いていく中で、どうしても必要な場合にのみ薬物治療も併用するが、基本的にはお話しする治療=精神療法が重視されている。そのほか、遊びの中で直していくという療法もあるが、このような精神療法は一般的に日本では保険が利かないか、もしくは、それで得られる収入がとても低く、結果的に短時間で多くの人を見る事が必要となり、また薬での治療に頼る結果にもなっている。日本と制度の違うイギリスにいて、お話しするだけの精神療法ででびっくりするほど良くなるということが驚きだった。


Q7 日本で、お話を聞くということで、精神科医とカウンセラーに聞くということを組み合わせていくことは可能か?

A
可能です。ただ、精神科医とカウンセラーの意見が違っていると混乱してしまいますのでその点に気をつける必要があります。日本で家族療法をやっている人は少ない。また日本では家族療法は国家資格になっておらず、医者でやっている人は少ない。心理やカウンセラーの資格で行っている人もいると思うが、家族療法という形でしているとすれば、多分保険のきかない私費診療だと思う。病院では私は家族を拝見するし、他のドクターも家族とあって話をするが、保険制度上では、このことによる収入は全く入らない。結果的に、必要だからやる、出来る人ができる範囲でやるという感じなっている。今の日本の精神科では、医者が5分か10分話を聞いて、ちょっとアドバイスしたり、薬を出したりするのが一般的でそれ以外は心理の人がお話を聞くという形でやっている。日本では子どもの精神科は保険点数がとても低くて、赤字になりやすく公立でないととてもやっていけないと言われている。私立の児童思春期精神科の病棟がなかなかできないのはそれが理由だ。


Q8 NYでアートセラピストをしているが、日本での子どもの精神病の件数は?

A  私のつとめる梅ヶ丘病院の受診患者数は大変増えている。新しく梅ヶ丘を受診する患者さんは1年間で2400人ぐらい。梅ヶ丘病院には新患当番というのがあって、1日に患者さんを4人ずつとっていくので1年間でとれる数は限りがあり、それに緊急の人を別に受けるという形でやっているが、数は非常に増えている。現在、平均して一日に約150人前後の人が病院を受診する。一年間でのべ42600人ぐらいである。医師によっては先に会計を済ませてもらって、8時、9時まで仕事している者もいる。ただし、子どもを診ることができる児童思春期精神医の数は増えていない。


Q9イギリスでは精神科とアートセラピーなどとの連携は?

A  家族療法にもアートセラピーにもきちんとした資格がある。イギリスには英国精神療法協会というのがあって、そこに色々な精神療法のセラピストが登録して国家資格というかたちになる。家族療法の場合、資格を取った後も、1年間ある条件を満たした場合のみ家族療法の資格の更新を認めるということを家族療法協会が出していて、きちんとチェックしている。アートセラピストはイギリスでは数が少ないが、家族療法の勉強会でもアートを使った家族療法をやったりもして、興味はもたれている。家族療法士が100人に対してアートセラピストは1,2人で大変数がすくない。言葉に頼らないセラピーの方法は特に子どもには大事だと思うが、現実的には一緒にアートセラピストと一緒に仕事をするチャンスは少なかった。ミュージックセラピーも同じだが、最後に勤めていた思春期の入院病棟ではアートセラピストとミュージックセラピストの両方が毎週一回ずつ来て病棟で仕事をしており、子どもたちはそれをとても楽しんでいた。


Q10,イギリスの子どもの心の問題と日本の子どもの問題が顕著に違っている点は?

A イギリスの外来クリニックでは、動物に残酷なことをしたり、暴力を振るったりという行為障害のお子さんが全体の4割だった。そういう子どもの問題の背景には深刻な家族の問題があることが多かった。代々虐待を受けて育ってきた家系だったり、家族の誰かが刑務所に入っていたりするのも珍しいことではなく、離婚などにより複雑な家系図となっていることも多く、とても深刻であった。
一方日本では学校での問題が引き金になって起きる精神的問題が多いように思う。特にいじめに端を発する問題が多い。最近注目されている発達障害、また発達障害が原因で対人関係がうまくいかなくなってうつ状態になったり、ひきこもったり、リストカットをしたり、(外ではおとなしいが)家庭内で暴れたりというケースが多い。


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