*講師の肩書・プロフィールは講演当時のものです。

セミナー第八回

第8回 Group With メンタルヘルスセミナー

海外で暮らす障害を持つ子どもの教育

講師  藤井 茂樹氏
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所教育相談部 総括研究員(日本人学校・企業支援担当) 研究班(発達障害)(2010年当時)

日時 :   2010年12月1日(水) 
場所:  東京ウィメンズプラザ

講師プロフィール
滋賀県において、障害のある人の乳幼児期から成人期に至るまで、一貫した支援が受けられる支援システムの構築に取り組んできた。研究所では、発達障害のある児童生徒への支援を、小中学校・高等学校の通常学級における授業改善と学級経営の視点で取り組んでいる。この視点が、日本人学校における発達障害を含む気になる児童生徒の支援につながる。 (2011年11月現在、滋賀県の病院に勤務)

 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

講演

国内での発達障害児への支援の経緯と実情

海外での特別支援教育をお話する前に国内で特別支援教育がどのように普及してきたのかをご説明します。
国内においては平成14年に小中学校4万人の子どもを対象に、通常学級に発達障害のある子どもがどの程度在籍するか調査しました。LD 4.5%、ADHD 2.5%、高機能自閉症 0.8%、症状が重なっている子どももいるので全体の中では通常の学級の中に6.3%の発達障害を疑われる子ども(診断された子どもではないため)がいるという結果がでました。その後5年間をかけて発達障害のある子ども達を受け入れる体制・整備を整え、教育基本法、学校教育法、施行規則等を一部改正し平成19年に新しい制度が施行されました。これまでの特殊教育の対象(視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・身体虚弱・情緒障害・言語障害・自閉症)だけでなく、知的な遅れのない発達障害(LD,ADHD,高機能自閉症)も含めて、一人ひとりの子どものニーズに最も適した支援を行うものとなってきました。

調査で対応できていなかった「幼児教育(幼稚園・保育園)」と「高等学校」については、対象にするための研究を続いて行いました。幼児教育においては財政が整わず断念する形となり、高等学校においては本年度20数か所での研究が進められています。

現在障害のある子どもを支援するために、小中学校の義務教育期間には特別支援学級や通級指導教室が設置されていますが、幼稚園・高等学校には整備する法律はありません。不登校児童生徒の40%から50%は発達障害のある子どもではないか、高校の年齢では精神疾患を合わせ持つ子どもも多いのではないかとも言われています。また発達障害、難病、高次機能障害者は法的支援を受けられないのが現状です。

国内では1歳半と3歳児に健診を受けるシステムがありますが、この年齢ではアスペルガー症候群等のこだわりのある子どもは見出せても、学習障害については難しい。就学前において発達障害のある子どもに気づくことができるのは、前記の健診時期ではなくもう少し成長した保育園・幼稚園期であり、この早い段階での気づきや支援をきちんと受けてきた子どもは就学後の適応率が高いと言われています。


特別支援教育推進上、日本人学校が抱える課題

派遣社員の年齢層は、子育て世代が増加し、それにつれて障害のある小さい子どもの帯同も必然的に増加してきています。日本人学校ではこれまで専門的な教員がいないなど教育環境上の問題で障害のある児童生徒を受け入れることが難しかったのですが、ここ数年、特別支援教育への関心が急速に高まってきています。しかし障害のある児童生徒の教育相談や指導方法等には常に不安があり、校内体制や指導への支援を強く求めているという現状です。


滞在国によっては現地社会資源を活用することも可能ですが、それらの情報が入手できるようなネットワークはできていません。学校にしても保護者にしても継続的に相談すべき場がほとんどありません。
日本では、小中学校の特別支援学級の設置率は80%をこえ、設置されていない地域でもセンター校という形で受け入れをしてくれますが、保護者は不安を抱えたまま帰国しますので、相談・助言してくれる場所や最寄りの相談機関の情報提供なども必要です。


特別支援教育の動きに関する情報を総合的に得ることは難しくネットワーク構築の必要性を感じますが、日本人学校の実情からネットワーク管理をすることは困難です。対応策としては、1対1での対応でも可能なので、まずは個々に相談を受けられた方がよいと思います。教員間においても認識に差があり、特別支援教育について共通認識に立って取り組むことが難しい現状です。


入学してくる子どもの具体的な情報交換や、帰国時の日本人学校での指導情報の引き継ぎ等が個人情報保護の観点から未確定なことも教員の不安材料となっています。このような中で、日本人学校によっては、特別支援教育担当教員の配置より養護教諭やカウンセラーの配置のほうが優先順位が高いとの認識を示す学校もあります。日本人学校は私立の学校であり、設立には企業や現地の日本人の要望が強く反映されている背景から学校運営委員会等が大きな影響力を持っていることが多く、受け入れにはこうした委員会の積極的な理解が特に重要となっています。企業へも特別支援教育への理解と啓発を働きかける必要があります。
保護者や企業側からの声として国に要望する手段もとってほしいと思います。


● 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所に求める情報や資料(2009)

1、 「独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所」とは・・・

http://www.nise.go.jp/blog/
 
 

 


国内の特別支援教育相談は各自治体でなされていますが、対象から外れている日本人学校の特別支援教育への相談や海外で暮らす障害のある日本人幼児や児童・生徒への教育相談は国立特別支援教育総合研究所(以下特総研と記載)が受けています。

<対象者>
○ 国外に在住している障害のある幼児児童生徒の保護者
○ 国外在住が予定される障害のある幼児児童生徒の保護者
○ 日本人学校や日本語補習授業校等及びその教職員
<相談内容>
○ 養育上の課題解決や幼児児童生徒の発達や障害のアセスメントに関すること
○ 指導、教育活動、療育上の課題解決に関すること
(例:指導法、児童・生徒のアセスメント等)
○ 機関における指導、教育活動、療育に関するシステムに関すること
 (例:指導体制、校内での支援体制、実践研究等)
○ 教材・教具等に関する情報提供
○ 機関紹介、ただし、日本人学校への就学の紹介や斡旋は行っていない

<今年度の取り組み>
○ 夏期日本人学校教育相談(8月)
夏休み期間に帰国する障害のある幼児児童生徒とその保護者を対象とした教育相談
○ ICT(情報通信技術:Information and Communications Technology)を利用した日本人学校特別支援教育話題交換会(12月)
  グループウェアを統合したコミュニティウェアNetcommonsを活用して、各日本人学校の特別支援教育担当者と特別支援教育に関する話題交換。
  今年度は日本人学校・補習校120数校に案内をし16校が参加予定
○ 日本人学校・日本語補習授業校へのアンケート調査の実施(1月)
  日本人学校と日本語補習授業校へそれぞれアンケートを行う。調査結果については、レポートしてまとめ、各学校ヘフィードバックを行う

組織的にも、教育相談部内に「日本人学校・企業支援」を作り企業側の理解を深めるよう働きかけています。



2、当研究所に求める情報や資料
特総研は毎年交互に日本人学校と補習校へのアンケートを行っています。来年は日本人学校に尋ねますが、前回の日本人学校へのアンケートには以下の件数の情報がありました。

○  日本人学校の障害児の受け入れ状況や特別支援学級の設置の有無、具体的支援に関する情報(25件)
○  保護者の体験談や相談実践例の提供(6件)
○  就学相談や専門機関との連携等日本人学校の課題点(7件)
○  特別支援教育に関する情報の提供、障害のある子女を帯同する場合の留意事項などが解説されたガイドブック等(15件)
○  日本と外国の特別支援教育の違いや日本人学校のない地域の海外情報(3件)

3、国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育情報センター(発達障害教育推進センターに改名)
http://icedd_new.nise.go.jp/ 
 

 

特総研のサイトから開くこともできます。

発達障害教育情報センターでは発達障害のある子どもの教育の推進・充実に向けて、発達障害にかかわる教員及び保護者をはじめとする関係者への支援を図り、さらに広く国民の理解を得るために、 WEBサイト等による情報提供や理解啓発、調査研究活動を行っています。

「発達障害とは?」ということから説明をして多方面への情報提供をしています。この中には研究員の映像による説明もあります。保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等で研修ができるようなプログラムも整えられていますのでそのまま使っていただけます。資料もダウンロードして使えるようになっています。日本の発達障害に関する厚労省や文科省、都道府県の情報もこのサイトから知ることが可能です。

● 「障害のある子どもの海外学校生活を支援するガイドブック」
1、ガイドブック作成の背景
ここ10年ほど、海外に渡航する保護者や、帰国してくる保護者から「障害を持つ子ども」に関する相談の増加傾向が見られました。こうした傾向についての実態等を把握するため、私の所属する特総研は平成17年度から2ヵ年、科学研究費により日本人学校(NY,北京、上海、香港、ソウル、シンガポール、タイ、ロンドン、フランクフルト)の調査を始めました。

○ 報告書(特総研HPより)「外国在留邦人に対する特別支援教育に関する相談支援体制の構築」
http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_f/f-146.html
この研究から、保護者等への相談活動だけでなく教職員への支援が必要なこと、特別支援教育を推進するのには学校運営協議会等企業関係者の理解を得る必要があることなどが明らかになりました。

2、「障害のある子どもの海外学校生活を支援するガイドブック」

 
 

このガイドブックは特総研のHPからもダウンロード可能なので活用してほしいと思います。保護者が海外に障害のある子どもを帯同する場合という想定でこの時にどのような手順で進めたらよいかという形で掲載しています。現在ガイドブックよりも身近なパンフレットを教員用と保護者用に作成しています。このパンフレットは特総研のHPからダウンロードして活用していただけるようにしたいと考えています。

<ガイドブックの目次>
プロローグ   かずみちゃん(仮称)の父親の悩みと支援する社内相談室
第1章 障害のある子どもの発見・支援の実情
 (1)障害の早期発見・早期支援システムの現状
 (2)地域の教育相談機関情報
 (3)地域支援としての特別支援学校の教育相談活動
 (4)独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の役割


第2章 我が国における特別支援教育の実情
 (1)特殊教育から特別支援教育へ=その理念と法的整備
 (2)最新の特別支援教育情報
 (3)特別支援教育理解のための基礎知識Q&A

第3章 障害のある子どもを帯同して海外生活を送る保護者への支援
 (1)障害のある子どもを帯同して赴任する際のチェックリスト
 (2)関係機関の情報
 (3)安心して家族一緒に海外生活を送るための基礎知識Q&A

第4章 日本人学校における特別支援教育の実態
 (1)日本人学校・補習授業校の設置場所と特別支援学級
 (2)「日本人学校・補習授業校における特別支援教育に関する調査」結果の概略紹介
 (3)日本人学校での特別支援教育に関する基礎知識Q&A

第5章 企業及び社内相談室担当者への支援
 (1)共に生きる社会と特別支援教育
 (2)障害のある子どもの理解と支援のための基礎知識Q&A

エピローグ
〇参考文献
〇資料
 (1)「日本人学校における特別支援教育に関する調査」結果報告
 (2)「障害のある子どもの教育に関する企業意識調査」結果報告
 (3)全国特別支援教育センター協議会名簿一覧
 (4)在外日本人学校一覧
 (5)関係法令集 
   1.学校教育法(抜粋)、学校教育法施行令の一部改正について 2. 発達障害者支援法


● 障害のある子どもを帯同して海外生活を送る保護者への支援
・障害のある子どもを帯同して赴任する際のチェックリスト
乳幼児期:
家族がそろって生活することが大切。医療的な対応が必要な場合は現地の医療機関情報を集める。病院に定期的に受診している場合は主治医と相談。滞在中は、父親の配慮が必要であり、日本人会等に母子サークルがあるか確認をする。

幼稚園期:
子ども同士の関わりを作っていく時期。将来的にどの言語を母語として生活するか考えておく。集団生活に参加できる状態か、支援が必要か考える。医療との関係は乳幼児期と同じ。

義務教育段階:
教育機関については日本の小中学校、特別支援学校での支援内容の整理、赴任先の日本人学校の情報収集、特別支援教育についての情報収集、日本人学校の入学手続き、赴任先の補習授業校の情報収集をする。相談機関については日本で受けてきた相談内容の整理、心理・発達検査等の結果の英訳、赴任先の相談機関の収集、赴任先の子育てサークル等の情報収集をする。医療機関については日本で受けている医療内容・検査結果の収集、英語の診断書作成、赴任先の医療情報の収集を行う。

関係機関の情報
 日本領事館や現地日本人学校との連絡
・日本領事館からの情報収集・日本人会の活動
・日本人会との連携と協働・関係機関における情報の収集
医療に関する情報
・日本でかかっていた医療情報を英訳・一時帰国の際には、これまでの医療機関や相談機関を訪れる
・現地の医療機関、医療制度に関する情報収集

上記チェックリストでも挙げたように現地での教育機関に関する情報や相談できる場の情報を得る。

● 日本人学校における特別支援教育(2009調査)
・文科省教員派遣をしている日本人学校83校への調査をし、39校から回答があった。
1)特別支援教育体制の現状
体制を整えている 17校  
次年度整備する予定 1校
検討中 12校

2)特別支援教育コーディネーターの指名
指名している    14校
特別支援教育を担当する分掌を設置 25校

3)障害がある、または配慮を必要とする児童生徒がいる
小学部 23校、中学部 14校

4)個別指導を受けている児童・生徒
小学部:学業不振 11校  発達障害 8校
中学部:学業不振 5校  発達障害 5校

5)障害のある子への支援
障害のある子どもの教育の場の設置
小学部 6校  中学部 3校 30校は設置していない

6)通常の学級の中の障害がある、または配慮を要する 児童生徒の状況
小学部 23校、中学部 14校がいると回答
対応の中心は、学級内の机間巡視と声がけであった

7)幼稚部の特別支援教育
幼稚部設置は38校中8校  障害がある、配慮を要する幼児がいると回答があったのは2校
近隣に日本語による教育をしている幼稚園がある15校、 その園と連携している学校は12校

 

・日本人学校における特別支援教育の課題
l. 個別的な支援を行うための人的配置
2. 児童生徒への指導内容や方法
3. 児童生徒の実態把握や見立て
4. 障害のある児童生徒を含む学級での授業改善
5. 校内での児童生徒の保護者の特別支援教育への理解

● 企業及び社内相談室担当者への支援
・ 企業体による支援情報
日本在外企業協会の研修や各企業が実施する派遣社員家族向けの講習会が催されていますが日本の情勢を反映して近年は企業からの積極的な賛同や経済的な支援が受けにくい状況になってきています。

・ 企業が研修会を開催するときの連携機関
(社)日本在外企業協会、海外子女教育部会
(財)海外子女教育振興財団
(独)国立特別支援教育総合研究所 教育相談部

・ 障害のある子どもを帯同する場合の連携機関 
(独)国立特別支援教育総合研究所 教育相談部

● 非営利自主活動グループ「Group With」
 http://www.groupwith.info
 海外での生活を体験した母親達の自主活動グループ

 提供する情報
1. 海外で暮らす障害のある子どもと家族のためのサポート
準備や心構え、サポート団体、相談先 情報提供
海外教育施設における「障害児受け入れ状況」一覧作成
・「海外日本人学校における特別支援教育と障害児受け入れ状況一覧」
・「海外幼児教育施設受け入れ状況一覧」
2.海外に暮らす日本人のメンタルヘルスケア 等
心の相談機関・窓口リスト作成
・(海外相談機関)日本語で受けられる海外メンタル相談機関 一覧
・(国内相談機関)帰国生や外国の方々のこころの相談機関 一覧
セミナー開催、専門家へのインタビューなど


● 特総研との連携事例
1、社内相談室への情報提供内容
○ 社員の子どもの教育相談
メールでの相談、一時帰国の際の研究所での相談(相談、心理検査の実施等、帰国後の教育について)
○ 情報提供
帰国する地域の教育機関等の紹介
小中学校における特別支援教育について
特別支援学級、通級による指導、特別支援学校


2、海外子女教育専門相談員連絡協議会との連携
○ 連絡協議会の例会における情報交換
  障害のある児童生徒の理解と支援
  発達障害児の理解と支援等
○ 教育相談室の相談事例への支援
  障害について、帰国後の対応について、教育情報等(メール相談、研究所での教育相談等)
○ 研究所が実施する日本人学校とのICTと専門相談員との連携  
○ 教育相談室担当者との事例検討会

今後はお互いにできることを発信し、ネットワークを作りながらそれぞれが連携していきたいと考えています。

 

質疑応答

質問 
アスペルガーの子どもを持つ母親です。子どもがやんちゃすぎるので補助の先生を付けてもらうことが可能かどうか 現地(アジア)の日本人学校に相談に行ったところ、特別支援学級を見学させられました。通常児とのボーダーだと思っていたので「支援学級に入れてあげます」と言われた時はショックでした。その際に日本で診断書をもらってくるように言われましたが帰国することができなかったので、英語の通じる機関で診てもらいアスペルガーと診断されました。その後インターナショナル校に入学させ専門の教師から教育を受けることができましたが、そこで障害児を「特別な才能を持っているという子どもたち」という発想で育てることを知りました。帰国して日本の現状をみると、つくづく障害児を育てるためには「先生の力」が重要であると思います。

回答

アスペルガーの子どもだからと言って通常の学級から出すということはありえませんが、残念なことはその子どもと出会った教員によって変わってくるということはあります。私が今見ている子どもは来年の3月に東大を受けます。京大を卒業した子どももいます。東大に行く子どもは小学校6年の時に担任の先生を半年間休職させてしまった子どもです。どのような先生と出会うかによって差があるこの制度は問題であろうと私も思います。

日本の特別支援教育も欧米、特にイギリスの考え方を取り入れていますから、個のニーズに応じようという考え方です。個のニーズに応じるためにどうするかを考えますから、その子どもに必要なら特別支援学級に入れますし、その子にとって必要ならば通常の学級に入れます。ただ、目の前にいる子どもを支える周りの子どもたちの教育がどこまでしっかりできているのかによって学校の判断が変わることもあります。特に発達障害のある子どもで動き回ったり関係性が持ちにくかったりする子どもは周りが落ち着けばその子どもも落ち着きます。一人の発達障害の子どもと関わるうえで、専門の学校、大学などで専門の勉強をした教師が必ずしもいいというわけではなく、通常の学級でも授業の上手い先生とか子どもと関わることができる先生であれば専門性がなくても十分対応できます。

質問
私たちGroup Withは障害を持つお子さんと家族へのサポートとして「海外日本人学校受け入れ状況一覧」と「海外幼児教育施設の障害児受け入れ状況一覧」の二つのリストをHPに公開していますが、学校や園側へのアンケートのなかで、受け入れ可能な「障害の種類と程度」について尋ねています。先生のお話しを伺って、この質問事項について再考する必要があるのではと思ったのですが。

回答

障害の程度が重いとか、軽いかということは、質問事項に入れられない方がいいだろうとは思います。重いから受け入れないとか軽いから受け入れるというのは、如何なものかと。そこに人が配置され対応できる方がいれば障害が重くても受け入れることが可能ですから。

「障害のある方は受け入れられますか」と尋ねて、受け入れられる場合には、「工夫なさっている事はどういうことですか」、受け入れられない場合には、「どういうことがあって受け入れられないのですか」という質問をされたらどうでしょう。

障害の程度によって分けるという考え方が、世界的な今の考え方の中では、相容れない部分だろう思います。肢体不自由の子どもで動き難い部分があったり車椅子だったりしても(歩けないから障害は重いですし、食べる時も介助がいるかもしれない)理解が良くて色々な事ができれば、あまり人をつけなくても大丈夫かもしれません。手が掛る部分の度合いから考えれば、発達障害で走り回る子のほうが負担は大きいかもしれません。

日本人学校に特別支援学級がある場合は「子どものニーズに対して、応じていますか」という質問くらいではないでしょうか。「そのニーズには巾がありますか、ないですか?」のような聞き方をすれば、その障害の程度というものが、ニーズの重さとか軽さとか云うものによって分かってくるのではないかと思います。我々研究所が聞く場合にはその制度の中で聞くしか方法が無いですけれど、保護者の方で聞く場合には、少し聞き方を変えて頂くのも一つの手かなと思います。

質問
高校生を帯同して海外に赴任するケースも最近増えてきたと聞いていますが、発達障害や統合失調症の気質を持つ子どもの場合、現地で発症したり、帰国時に日本の文化と適応障害を起こしたり、不登校になってしまったりとかというような具体的な事例があれば教えてほしいのですが。

回答
派遣される社員の方達の年齢が若くなっている実情があり高校生の相談は少ないのですが、(一緒に海外に行くかどうかは)基本的に本人に判断させることが一番です。その子どもが外国へ行った時に、耐えうるものがあるかどうか、許容範囲があるかどうか、適用力があるかどうかを踏まえた上で、子どもと話し合い決めていく必要性があります。親戚の方などに預けて一人日本に残すほうがまだ本人にとっては楽な場合もあります。だから必ずしも連れて行くという前提ではなく、子どもの性格とか状況とかを掴んだ上で決められた方がいいです。

親の赴任で海外に行く時の抵抗感っていうのは、今の子どもは我々の時とは雲泥の違いで、とても厳しいみたいです。でも辛くても今の子は言わないんです。だから察してあげなくてはいけません。私は高校の段階で行くのは無謀だと思います。3年とか4年とかで帰ってこられるのでしたら、今の自分の生活の中で置かれている状況で頑張って暮らすことを覚えさせた方がいいと個人的には思います。それから大事なのは、親子関係の中で人生を考えてみると「父親が海外に行く」というだけの事です。子どもを帯同する必要は何もない。だから子どもに選択権を与えて、今の親子環境を作られてもいいのではないでしょうか。

今の子どもの状況は厳しく、一昔前の方が安定しています。その中で転校を考えるときは障害が有る無しに関わらず、子どもの能力を考えて決めてほしいと思います。


質問
障害を持っている子どもに対する日本人学校の受け入れ枠や教員の配置などについて教えてほしい。校長先生の意向によって変わるとは思いますが。

回答

日本人学校は私学ですから、特別支援学級の教員の配置について基本的に国はしません。それでも大変な現状を校長先生が頑張って文部科学省に訴えた場合、そうした学校から教員が配置されていきました。上海、香港など、こうした経緯で支援学級ができた所が幾つかあります。

日本の場合は障害を持つ子どもが8人越えればもう一人教員が配置されます。日本国内の公立学校は、特別支援学級の子どもの数が増えれば教員を入れて何とか対応しようとしますが、日本人学校の場合は私立の小・中学校ですから、そこの運営母体、日本人会とか運営委員会で教員配置にかかる費用を考えなければなりません。例えば600人の子どもがいると教員一人は配置することが出来る、二人目の部分については難しいけれど、企業にお願いしてみるというように。だから今の制度上では、日本のように障害のある子どもにきっちりと先生を配置してもらえる仕組みを作るというのは難しいのです。

日本も必ずしも全ての学校に障害児学級が有った訳ではなく、親の熱い思いとか願いによって先に進んで行った経緯があります。住民の人達の声によってできる部分も多いということです。日本人学校においてもできれば運営委員会の方たちが、企業の方も多いですから、声を上げてほしいと思います。どうしても周りが動かない場合、当研究所に相談されてくる保護者の方々に対しても、文科省にもお電話してほしいと伝えますが、多くの場合、そこであきらめてしまいます。一昔前の保護者の思いと違うなぁと思ってジレンマを感じてしまうことがあります。できれば少し声を上げてもらいたいと思います。


第8回Group With メンタルヘルスセミナー 講演録  (作成 Group With)


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