海外子育ての準備や心構え


「ユニークな発達を示すお子様を帯同なさるご家族様へー海外生活がちょっと楽になる4つのアドバイスー」(2018年)

佐々木 恭子   
Crystal Children 
  

【プロフィール】
佐々木 恭子(人間学修士)保育士・支援教育専門士・家族療法カウンセラー・行動療法セラピスト(ABAセラピスト)一児の母。メキシコの日本人学校幼稚部にて、統合保育を担当した際に、海外で療育をすることの苦労を知る。帰国後は、自閉症児センターにて行動療法セラピストや、インターナショナルスクールにて特別支援教諭を経て、現在は海外在住の保護者を対象に、メールやチャットでの無料発達相談を行っている。

 

育児が孤独であることは、案外知られておりません。女性が外で働くことが普通になった昨今では、子どもが産まれ一時的でも家庭に入り、それまでのご自身の生活スタイルがガラッと変わったことで、戸惑われた方も少なくないのではないでしょうか。

 

それまで難無く出来ていた、気心の知れたご友人方との食事やお茶会とも、しばらくお別れしなくてはなりません。お子様が生後間もない頃は、寝る間も惜しんで昼夜問わず我が子のお世話をしなくてはならず、肉体的にもかなり限界が来ている所に、育児の悩みを打ち明けられる人どころか話し相手さえ身近に見つけられない方もいらっしゃり、初めて体験するような精神的ストレスを抱えていらっしゃる保護者様も珍しくありません。

女性は特に、悩みや問題が解決しなくとも、誰かに話しをして聞いてもらい、共感してもらっただけで心が軽くなると感じられる方が沢山いらっしゃいます。地域の児童館などに初めていらしたお子様連れの保護者様方の中には、とにかく話し相手を見つけたかったとおっしゃる方が多いものです。この様にして、子育てとは時に孤独を伴うものなのです。


そこに加え海外でお子様をお連れになって暮らすことになりますと、日本に居た時は周囲に頼まなくとも問題なくご自分お一人で出来ていた日常的で小さなことでさえも、言葉の壁や文化の違いから困難になることが容易に伺えます。

例えば、自宅のエアコンが壊れて修理が必要になったり、お子様の園や学校へ提出する書類の手続きをすませなくてはいけなかったり、家の中に地域特有の害虫大群が出たり、薬局で必要な薬を買わなくてはならなかったり、等といった日常レベルの些細な事に至るまで、対処の難易度が日本で生活されていた時とは随分異なります。人に頼まざる得なくなった場合も通常より多く手間や時間がかかるため、それらの小さなことが積もり積もって、慢性的なストレスを感じるようになってしまうことがあるのです。

海外在住者様に向けたメンタルにおける支援グループが不十分であると言える現状で、新しい価値観で生活しなくてはならないストレスは、親子関係の不和をももたらす危険性が少なからずあります。問題が小さいうちに対処しつつ、体調の不調が日常生活に支障をきたすようであれば、早い時期に相談をすることが大事だと思います。

そこで、既に赴任されたご家族はこのような状況をどのようにして乗り切られているのかについて、私が海外生活でお目にかかった保護者様方のお話を以下に述べたいと思います。

 


1)自身の大変な状況を周囲に知らせ、ドンドンお手伝いを募っていらした方

もう10年以上昔のことになりますが、メキシコの日本人学校幼稚部に勤務していたことがあり、特徴的な発達を示すお子様を統合保育として数名担当したことがございました。

そのうちのお一方の保護者様は現地で邦人の付き添い要員を募り、お子様の補助として個人でお雇いになっていました。

園での付き添い補助は、一日二日で終わるものではなく長丁場です。大変骨の折れる仕事でもあり、慣れない方がお一人で受け持つのはかなりの負担が予想されます。保護者様にとっては、園に付き添いをしている時間帯は他のことが全く出来ません。お子様にご兄弟がいらっしゃる場合は、他のお子様のお世話もしなくてはなりませんし、その上家事まであるのです。どんなに体力と意欲があるお方でも、とてもお一人ではこなしきれません。

当時のメキシコ在住の邦人数は、全盛期に比べますと決して多いとは言えない数でしたが、その保護者様は様々なところで意欲的に人材をお探しになり、なんとか補助の方を見つけられたのでした。そこで、保護者様と補助の方が交代で園にいらっしゃり、園でのお子様の生活も付き添いの方の補助でスムーズにいくようになりました。

このようにして様々な工夫をなさりながら、ご家庭内で必要な役割を可能な限り分担されていらっしゃり、家族の誰か一人に多大な負担がかかってしまう状況を上手に回避されていらっしゃいました。

先日、その保護者様ご家族とお目にかかる機会がございましたが、その頃が保護者様ご自身も一番頑張っていらしたと感じられたし、お子様も一番伸びていらしたように思われると、当時を振り返りながら仰っていました。


2)積極的に外に出て、ご友人のネットワークを作られた方

以前に私が知り合いましたシンガポール在住のご家族ですが、お子様が当時通っていらしたスクールに馴染めず苦労されていらっしゃいました。カウンセリングや療育を試されたようですが、中々思ったように効果が表れず、大変お困りでいらっしゃいました。

その後、あることがきっかけとなり、保護者様が地元のボランティア団体に参加なさることになりました。以前は、お子様の年齢が低かったために抵抗があったメイドさんのご利用も、その時に思い切ってお試しになられたそうです。すると、家で家事と育児に煮詰まっていた保護者様の生活スタイルが、地域の方々と繋がることによりガラリと変わりました。そこで、各方面の方々から現地の活きた口コミ情報を得ることができ、結果としてお子様により合ったスクールを見つけることが出来たのです。

スクールという環境が変わったことによって、そのお子様が以前見られたような不適応行動は転校先で見られなくなり、保護者様も外でご自身のためのお時間を作られたことでリフレッシュされ、以前に比べ生活を楽しめるようになったと仰っていました。

家庭のご事情などにより、中々身動きが取れず外に出ることが困難な保護者様もいらっしゃいますが、状況が許すのであれば思い切って子守やメイドさんをお雇いになり、外に出て行かれることをお薦めいたします。外界と繋がることで新たなネットワークが出来、そこから広がる人間関係がご家族の抱えられていたお悩みを解決する糸口につながることもあるからです。


3)固定観念にとらわれ過ぎず、柔軟に構えられた方

当時イギリスの日本人学校に通っていらしたお子様をお育てのご家族でしたが、その後ご主人様にイギリスでの長期滞在の可能性が出てきたため、現地校にお子様の転校手続きを済まされました。

ところが、その現地校で校風や友人に馴染めずお子様が不適応を起こされたのです。慌てた保護者様は、当初何とかしてお子様の学校生活を再び充実したものにしようと一生懸命努力され、スクールカウンセラーや地元の専門家にサポートをお願いしたのです。しかし残念ながら、お子様の意思が固くどうにもなりませんでした。

最終的に保護者様は、お子様の意思を尊重なさり、現在は地元の専門機関と連携しながらホームスクーリングという形に落ち着いていらっしゃいます。それまでお子様にかかりっきりであった保護者様も、意識して息抜きをなさり、ショッピングや習い事、短期のご旅行に行かれたりと、お子様と適度な距離を保てるよう他のことにも集中なさいました。その結果、お子様も一時期よりはずっと安定した状態になられ、ご家庭内の雰囲気も大分持ち直されたそうです。

海外赴任前に描いていたご家族の未来予想図と現実の状況が一致しないことは、少なからず起こりえます。保護者様にとってのお子様とは、かけがえのない存在であるため、お子様の未来に向けて最善のことをして差し上げたいと願う保護者様のお気持ちは十分理解できます。しかし、赴任された地域の状況がご想像なさっていたものと異なっていたり、お子様の年齢が上がってくるにつれ状況に変化が表れたりして、予測不能の事態が起こることも考えられます。そして、思いがけない方向にご家族の進路が進むこととなり、そこでも新たなストレスがご家族全体に生じることもあるのです。

赴任先でお子様に何か深刻な問題が見られた時、先ずは緊急時の対応に備えることが先決ですが、次に地域のリソースを利用してみることをお薦めします。しかし中には、文化的な背景やアプローチの仕方が国や地域によって異なるため、現地の専門家のアドバイスに保護者様やお子様が戸惑われることも起こりえます。そんな時は柔軟に構え、帰国の可能性も視野に入れつつ流動的にとらえられると、結果として丸く収まることもあるのです。

 

4)意識的に、息抜きをなさった方 

日本でABAセラピストとして勤務致しておりました時に担当したお子様の保護者さまで、外国籍の方がいらっしゃいました。その保護者様は大変日本語が堪能でしたが、地元のコミュニティに溶け込むのは文化や習慣が大変異なるため困難なご様子でした。

大変勉強家な保護者様でしたのでご自身で色々と療法をお調べになり、お子様の発達に良さそうだと思われるものは一生懸命取り入れられていらっしゃいました。我が子の発達を促すため、親であるご自身が何とかしなくてはと、思いつめられてしまったそうです。こうして、ご自宅でお子様と四六時中一緒に過ごされていた結果、かなり煮詰まってしまい精神的にも肉体的にも行き詰ってしまわれたご様子でした。

その後その保護者様も、メイドさんを雇わられたり地域のサービスを利用したりするなどして、役割の分担を積極的になさったそうです。意識を外に向けられるようになりお勤めを始められた結果、お子様との距離感もバランスが保たれ、それまで煮詰まり気味であった親子関係もより改善され、保護者様ご自身の心身の健康も手に入れられたのです。

ご家庭内に気になることがあると、家族に意識が集中し過ぎてしまい、家庭を離れ外に出ることを躊躇われる方がいらっしゃいます。それにより、保護者様自身がリラックスしたり息抜きをしたりしづらい傾向が生じてきてしまうのです。意識的に息抜きとなる場所に出かけていき、ある一定時間は別なことに拘束されるような環境にご自身を置かれるのも、一つの手だと思います。

家庭とお仕事の両立を海外生活においてこなすということは、かなりハードルが高いとお考えになられるかもしれませんが、ご自宅にずっと籠られて過ごされた時のメンタル面へのストレスは、かなり高いものがあると思われます。さらに、ご主人様のお仕事の都合で海外赴任ということは、ご主人様がそれまでよりも仕事に忙しくなることも考えられ、日常的な小さなことは頼みづらくなったり更には頼めなくなったりすることもありえます。ご主人様と話をする時間さえも限られる場合がありますので、お子様が通われる園や学校で何か問題が起こった時や就学前であれば育児での悩み事などを、相談することもままならないといった状況も起こりえます。この様にして、更に孤独へ拍車がかかってしまうことが多々あり、気分的にも滅入ってしまうものです。

特に不眠や食欲不振、イライラなどは精神的なストレスから発生するSOSのサインであることがございます。保護者様がご家族の体調管理を気になさることは大切なことですが、ご自身の心身のご様子にも是非とも目を配って頂きたいと思います。


先に述べました実例から、いくつかの共通点が見えてきます。1)人と繋がること、2)家庭内の役割分担を見直すこと、3)問題が深刻化する前に手を打つこと、4)流動的に構えること、などです。

その他にも、上手に気分転換をしてストレスのガス抜きをすることや、初めからしっかりやり切ろうとしないこと、等も、挙げられるでしょう。

海外で生活をしているのですから、物事が今まで通りに進まないことが当たり前、それを良しとする思い切りも大切です。上手くいかなくても自分を責め過ぎず、出来ない自己も許容するように意識して構えること、周囲にお手伝いを呼び掛けることを躊躇わないことなども、煮詰まり過ぎないポイントと言えます。

「日本人」は、一歩日本から出れば「外国人」となります。特に邦人様が少ない国や地域では、日本語での支援はほぼ皆無であり、家事や育児をこなす際に慢性的な孤独に陥りやすいと言えます。逆に、邦人様が多く在住する国や地域では日本人コミュニティーがあることもありますが、そこが予想以上に狭い社会であることは余り知られておりません。日本人同士ならではのしがらみや細かい付き合いなどに、段々気疲れしてくることも考えられます。

海外で生活するということは、自国日本で生活していたらかからないであろうと思われるそれなりのストレスがあり、そのストレスに日々晒されながら生活するということも考えられます。この様にして、海外という特殊な状況下で生活をするためには、インターネットをフルに活用し情報収集を行って、とにかく色んな団体やそこに所属する方々と繋がることをお薦めしたいと思います。ドンドン外に出て積極的にご友人や悩みを共有できるお仲間を探すことが、何より大切でしょう。人と繋がることで、家庭内の役割分担も可能になり、保護者様方が家事や育児によってすり減ってしまうことを防げるばかりか、そこに生じる難しい困難にも共に立ち向かうことが出来るからです。人と繋がることで辛い時も絶え凌ぐことが出来、その結果乗り越えられることも増えてくるのです。

 

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