国立国語研究所・日本語短期研修に参加して 

                                
2003年8月8日、9日の二日間に渡り、国立国語研究所主催の日本語教育短期研修に参加しました。一日目は「多言語環境下の子どもの言語発達・言語学習」、二日目は「母語・継承語教育を考える会」でした。

一日目、東京学芸大学国際教育センター高木光太郎先生による「ことばの発達と学習」、国立国語研究所の石井恵理子先生による「多言語環境下の子どもに対する学習支援」、米国ニューヨーク州スクールサイコロジストのバーンズ亀山静子先生の「多言語環境下の子どもの言語発達上の問題」を聴講しました。
今回はこの中からバーンズ先生の「多言語環境下の子どもの言語発達上の問題」をまとめました。

多言語環境下で特に問題となる障害には学習障害(LD)、注意欠陥多動障害(ADHD)、情緒障害、言語発達の遅れ・言語の障害などがあります。学習障害の人は、年齢相応か若しくはそれ以上の知的発達をしているが、学習スタイルに特性があるためにその知的発達に見合った学力を発揮することができないということです。
 これらの障害は多言語環境下にいるために早期発見が妨げられることが多く、その原因として幾つかの要素が挙げられました。

一つは、「多言語に接しているから言語発達などが遅れるのは当然」との思い込み。第一の言語における第二の言語の占める量的、質的な割合に目を向けると、言語発達を阻むほど第二言語の占める割合が大きくないことがあります。また、ごく初期の言語発達(始語、二語文の時期)には、多言語環境はそれほど影響ないはずです。言語発達などの遅れには多言語環境以外にも何らかの障害があることが多いのです。

二つ目は学校と家庭での思い違い。学校は「言語が充分でないので遅れがあるが、日本語ではちゃんとやっているだろう」、家庭は「学校からは何の連絡も無いので大丈夫だろう」と充分なコミュニケーションが取られていないことが早期発見を阻みます。

三つ目は学習内容の軽減化。第二言語では複雑な言語理解・表現ができないので、単純な課題ばかりを与えられることが、適正な発達をしているかを判断することの妨げになります。
障害のある人たちはその特性を理解してもらえないことで、傷つき自信を失っていきます。その結果、非行や不登校に向かうこともあります。これら障害の症状の一つとしてでなく、周囲の無理解により引き起こされるものと言えます。

先生のお話を伺い、LD,ADHDなどについて漠然とした知識はあったものの、認識不足であったことを実感しました。障害がある場合、その子の特性にあった教育をすることが必要であり、そのためには早期発見がなされなければなりません。多言語環境であるがために障害が見逃されることがないように、専門家の育成や教育の環境を整えることは勿論ですが、何よりも私たちがこれらの障害への理解を深めることが大事であると思いました。

二部の分科会に出席できなかったため、障害への具体的な支援についてのお話を伺うことができず残念でした。またの機会を楽しみにしたいと思います。(諏訪)


二日目、石井恵理子先生から国立国語研究所における外国籍児童生徒に関するプロジェクト概要の説明を受けた後、その検査結果をふまえて名古屋外国語大学の中島和子先生により「母語はどう後退するか」の発表がありました。続いてカリフォルニア大学ロングビーチ校のダグラス昌子氏の「『読み』の力の評価から指導へ」、前日発表されたバーンズ静子先生の「両方の言葉が弱い子どもに対する対処の仕方―school psychologistの立場からー」と休憩無しで約3時間熱心な説明が続きました。二日目の参加者は主に継承語教育の現場で指導をしている方々が大多数です。

二日目は国立国語研究所が日本に滞在する中国籍とポルトガル籍の児童生徒200余名を対象として平成11年から12年に行ったアンケート結果から中島先生が発表された母語(第一言語)と日本語(第二言語)の習得関係を取り上げたいと思います。子どもたちの日本への滞在年数は3ヶ月から12年です。

過去二言語習得を調べたものは、主に伝達面での口頭能力を取り上げたものが主体で、子どもたちは約2年でほぼ問題無く二言語を使いこなすことが出来るという結果でした。今回の調査では口頭会話能力に加えて読解・聴解も含む認知力を個別調査しています。

ポルトガル語を母語とする子どもの口頭会話能力は入国年齢と大いに相関し、8歳あたりを境界としてそれ以降の年齢で入国した場合は滞在期間の長短には関係なく母語の会話能力はしっかりと維持されています。8歳前に入国した場合は子どもによって大きくばらつきが出ており、他の因子が関わってくるものと思われます。これは入国した時点でどの程度母語での伝達能力を備えていたかがそれ以降の維持に影響を与えるというものです。

漢字を使う中国語を母語とする子どもの読解力も滞在年数よりも入国年齢が8歳を越えているか否かで高いかどうかが分かれ、小学校高学年以上で入国した子どもは母語の読解力がゼロに近いという率は大変低くなる傾向です。

日本語の習得には子どもの入国年齢よりも滞在年数との相関が見られます。
中レベルのポルトガル語を母語とする子ども達が入国後に身につけるバイリンガル会話力には大きく5つのタイプがあります。(1)会話内容は中程度で中レベルのポルトガル語が強く残る(約20%)(2)会話内容は中程度でポルトガル語、日本語ともに中レベル(約30%)(3)会話内容は中程度で日本語が高レベル(約20%)(4)会話内容も高度でポルトガル語、日本語共に高レベル(5)会話内容が低くポルトガル語、日本語共に低レベル 
特に(5)の子どもには聴力、家庭内、友人関係等の問題や、不適応や学習障害も考えられます。
親へのインタビューを通じて、親の意志とその後の子どもの母語と日本語の上達傾向を見ると(1)母国志向、母語使用の家庭→母語、日本語共にプラス(2)子どもへの教育に熱心、日本語支援の家庭→母語、日本語共にプラス(3)母国文化重視、現地校不満の家庭→母語、日本語共にマイナス(4)日本人帰属感、日本語使用の家庭→母語に大変なマイナス、日本語に大きな関係は見られないという傾向があります。

今回のお話は中島和子先生の「バイリンガル教育の方法 - 12歳までに親と教師ができること」((株)アルク)を読まれるとより深く理解できる内容かと思います。(松井)

 

無断のコピー・転載は固くお断りします。
 © 2003 Group With