海外邦人のメンタルヘルス

<欧州ーイギリス 投稿その1>

 

英国在住のカウンセリング心理士、家族療法士の戸塚陽子先生に英国における医療サービスとメンタルヘルスケアの状況についてお話しして頂きました。(2002.11)

その後一部加筆訂正されています(2009.2 Group With)

 

戸塚陽子氏プロフィール
(Dr Yoko Totsuka)
カウンセリング心理士Chartered Counselling Psychologist
英国心理療法協会公認家族療法士UKCP Registered Systemic and Family Psychotherapist
システミック・サイコセラピー博士 D.Sys.Psych.
認定スーパーバイザー(Association for Family Therapy) Approved Supervisor(Registered with the Association for Family Therapy)
現在はロンドンのNHSクリニックMarlborough Family Service(Central and North West London NHS Foundation Trust),Newham Child and Family Consultation Service(East London NHS Foundation Trust)に勤務.


英国で医療サービスを受けるためのアドバイス
・ これは医療一般についてのアドバイスです。英国の医療には、National Health Serviceという公営で無料のサービスと、プライベートの有料のサービスとがあります。6ヶ月以上英国に居住する場合、誰でもNHSの無料のサービスを受けられます。

・家が決まったらまずは最寄りのGP(General Practitionerの略、一般家庭医)への登録をおすすめします。お住まいの地域のGPのリストは、家の近くの図書館でもらえます。または地域のHealth Authorityに電話すると送ってくれます。GPは、初期治療を担当していますので、基本的な医学的な問題についての診療、治療をしてくれます。

・専門医や専門的な分野のサービス(精神科、心理治療を含む)への受診が必要な場合にその紹介をするのもGPの役割です。何か問題があるときにはまずGPに相談して専門医に紹介してもらいます。専門的サービスへの受診には、通常GPの紹介が必要です。サービスは、基本的に地域割りになっていますので、お住まいの地域を担当する機関に紹介してくれます。

・緊急時にA&E(Accident&Emergency、救急医療機関)を利用する場合でも、GPの詳細について必ず尋ねられます。個人の診察歴、病歴などの記録はすべてGPのクリニックに保管されています。緊急時のことも考えて、普段プライベート医療を利用している方でも、登録しておくことをおすすめします。

・NHSのサービスでは、GP、専門分野のサービスを含め、通訳を無料で依頼できます。予約を取る時に前もって依頼しておく必要があります。精神科、心理治療なども含めた専門サービスに紹介してもらう場合、通訳が必要かどうかGPに伝えれば、紹介状に書いてくれます。

・簡単なことでしたら英語で大丈夫な場合もあるかもしれませんし、どうしても日本語でないと伝えられないと思われる場合もあると思います。NHS、プライベートをご自分のニーズに応じて使い分けてはいかがでしょうか。

英国総領事館のウェブサイトの情報も参考になります。
在英国日本国大使館/在ロンドン日本国総領事館のメンタルヘルスに関する情報(2009.1.26)
https://www.uk.emb-japan.go.jp/itprtop_en/index.html

英国で心理的問題について相談を受けるためのアドバイス
NHSを利用する場合
・現在、NHSの日本人専門の心理サービスはありません。NHSを利用する場合は、英語、または通訳を通して利用することになります。NHSのサービスは無料で、通訳も無料でつけてもらえます。
・GPのクリニックでカウンセラー、サイコロジストを置いている所も多くあります。この場合も、GPから紹介してもらいます。

・睡眠薬、抗うつ剤は、GPが処方できます。

・より専門的なサービスが必要な場合、例えば精神科医による診断、処方が必要、特殊な心理的治療が必要といった場合は、地域のメンタルヘルスサービス(Community Mental Health Team)に紹介してくれます。児童、思春期の問題については、専門の機関(Child&Adolescent Mental Health Service)に紹介してもらいます。

その他のサービス
・非営利団体で、無料で心理カウンセリングをしているところもあります。GPに問い合わせてみてもいいでしょう。

・NHS以外だと、プライベートで有料になります。

・日本心理プラクティス-日本語で受けられる心理療法/カウンセリング
日本心理プラクティスでは、英国在住の日本人の方々を対象に心理相談を行なっております。大人から子どもまで全ての年齢層を対象に、様々な心理的な問題や困難についてご相談をお受けします。ご相談をご希望の方は、戸塚まで、ご遠慮なくお電話下さい。
Tel:070-5002-9171

英国の心理専門家、精神科医の資格
<心理専門家>
英国の心理専門家の資格には主として次の三つがある。このどれかの資格を有している専門家であれば、学会が定めた基準を満たしていることになるので、英国で専門家を探す時の目安になる。資格取得後も知識や技能の維持のため、各学会・団体が定める訓練やスーパービジョンを受けることが義務付けられている。

1.心理士 
Chartered Psychologist

2.英国心理療法協会公認心理療法士
UKCP (United Kingdom Council for Psychotherapy) Registered Psychotherapist

3. 英国カウンセリング協会公認カウンセラー
BACP (British Association for Counselling and Psychotherapy) Accredited Counsellor
*サイコロジストはBritish Psychological Society(英国心理学会)が認める資格で、1988年からチャータード・サイコロジストという資格となり、国のお墨付きをもらった国家資格と同等の位置付けになった。卒後最低3年の臨床訓練が必要。サイコロジストになるには、心理学の学士号を取った後、臨床訓練と心理学的研究が含まれた修士または博士号の訓練コースに入る。日本の心理資格との大きな違いは、専門分野によって資格が細分化されていることである。チャータード・サイコロジストには、Clinical Psychologist (臨床心理士)、CounsellingPsychologist (カウンセリング心理士)、Educational Psychologist (教育心理士)、Forensic Psychologist (犯罪心理士)、Occupational Psychologist (職業心理士)、Health Psychologist (健康心理士)などがあり、それぞれ訓練も職業内容も異なる。

*UKCPは、様々な心理療法学派の学会を取りまとめている機関で、各学会の定める訓練の要件を満たして資格を得ると、UKCP公認心理療法士の資格を得ることができる。訓練期間や内容、資格の要件は、学会によって違う。
*カウンセラーは、BACP(British Association for Counselling and Psychotherapy)が認可する訓練、または同等の訓練と、最低3年の臨床経験が資格取得の要件である。

英国以外の国での心理専門家の資格
★アメリカ
アメリカにも様々な資格がある。心理士の資格は、APA(American Psychology Association)が統括しているが、登録は各州でしなければならない。

★日本
日本では、臨床心理士という資格が主。心理学の学位かそれに相当する資格に加え、大学院の修士号レベルで2年訓練を積むと資格取得試験を受けられる。

<精神科医>
医学部を卒業後、1年の内科、外科での訓練を経て、精神科の専門訓練に入る。まず、Senior House Officer(SHO)として最低3年、精神科の様々な専門分野での臨床訓練を受けながら、Royal College of Psychiatryの試験を受ける。これに受かると、MRC Psych(Member of Royal College of Psychiatry)を取得でき、これが精神科医としての基本資格となる。この後、専門分野を選び、Specialist Registrarとして最低3年の訓練を受ける。精神科は、成人を対象とする一般科、児童、老人、心理療法、触法など、さらに細かく専門分野に分かれており、専門性が高い。要件を全て満たすと、コンサルタント(上級医師)として働けるようになる。コンサルタントになって初めて、監督なしで働けるとみなされる。
<専門家を探すには>
学会のウェブサイトから専門家を検索することができる。GPに地域の専門家を紹介してもらう方法もある。一口にセラピー、カウンセリングといっても、学派や訓練によって手法が違うので、期間や頻度も違ってくる。まずは専門家に連絡し、どのような問題で相談したいのか、目的は何かなどを簡単に話して相談し、どのような手法を使っているのか、資格などについてもきいてみるとよい。プライベートの場合は料金について確認が必要である。納得がいくようなら、初回の面接を予約する。大抵、アセスメントのため1-3回の面接が必要である。治療方針や頻度の詳細は、この時点で専門家とクライアントが相談して決める。
British Psychological Society
http://www.bps.org.uk/
UKCP (United Kingdom Council for Psychotherapy)
https://www.psychotherapy.org.uk/
BACP (British Association for Counselling and Psychotherapy)
http://www.bacp.co.uk/

<トラブルにあったら>
各学会が倫理規定を定めており、専門家は属する学会・団体の規定に従って業務を行わなければならない。何か問題が起きたら、専門家の属する学会・団体に連絡し相談することができる。各ウェブサイトに、苦情や不満があったらどうすればよいかアドバイスがある。

イギリスでの不登校・いじめへの対応
最近日本のひきこもり現象がテレビ番組で紹介されたときには、これは日本だけの問題ではないというコメントが多く寄せられていました。私は英国の子どものサービスで働いていますが、不登校、いじめの問題は英国でもよくみられます。ただ、対応はかなり違うように思われます。

そのまま家で子どもの様子を見るというという対応は、むしろ事態を悪化、慢性化すると考えられています。不登校が長期化するほど、ますます行きづらくなり戻れなくなるという認識があるので、できるだけ早く社会、学校へ戻すという考えが基本にあります。また、子どもに教育を受けさせるのは親の義務という考えがあります。
学校には不登校の問題に対応するスタッフ(Educational Welfare Officer)がいます。子どもの悩みに対応したり、家庭とのリエゾンをするスタッフ、カウンセラーが置かれている場合もあります。心理的問題が背景にあると考えられる場合は、学校からNHSのメンタルヘルスサービスに紹介されることもあります。不登校の問題には、心理専門家、学校スタッフ、家族が連携し、共同で対応するアプローチが効果的です。
© YokoTotsuka 2009

関連リンク
「Mental Health and Psychological Needs of Japanese Clients in the U.K.Counselling and Psychotherapy Resources」by Yoko Totsuka