海外子育ての準備や心構え

海外日本人学校転入とその後… 障害を持つ子供とともに
ヨーロッパ在住 母親(2022年12月投稿)

 
はじめに…

私は約四年前に現在の居住地(欧州)に軽度知的障害のある息子を連れて渡航してきました。

渡航前は様々な困難のある学童期の息子を連れて帯同するべきかどうか非常に悩みましたし、渡航後半年ほどの環境適応期間も上手くいかないことが多く、夜な夜な涙を流しもう無理だと感じたこともありました。しかし、様々な工夫を重ねながら学校と家庭とで連携して、何とか現在までやってくることができました。障害のあるお子さんを連れて海外に渡る保護者の皆さま、また海外生活に悩んでいらっしゃる保護者の皆さまに私の経験がお力になれば…という思いでこのメッセージを書いています。

 

渡航前

息子は言葉の成長がゆっくりでしたので、当時まだ言語形成の最中でした。そのため、母国語である日本語環境の整っている日本人学校に通えることを望んでいました。

渡航の一年程前、日本から現地の日本人学校にメールで初めて連絡をとりました。その際に息子の事情について書いたところ、当時の校長先生からは「支援学級がなく受け入れは難しい」というお返事と「日本で引き続き暮らしていく方が適切な支援を受けられるはずである」というアドバイスをいただきました。その言葉を真摯に受け止めつつ、その他にも思い当たる限り相談できるところに相談をしました。

通っていた発達外来の医師が以前に同じような件を経験したときに保護者から聞いていた内容を話してくださったり、通っていた小学校で海外派遣の経験がある先生が日本人学校について話してくださったりして、徐々に情報収集することができました。そして、国立特別支援教育総合研究所に相談をしたところ(※2017年当時。2022年現在、保護者個々の相談には応じていない)、「日本人学校の受け入れに関しては、時期や学校側の事情で状況が変わることもある」ということや、「日本人学校に通えない場合に必要であろう資料も一通り準備していくことで、現地で何か別の道を模索できるかもしれない」「一旦渡航するのも一つの方法」というアドバイスをいただきました。
できれば家族が一緒に暮らしていける環境をもつことを最優先に考えていた私たちは、とにかく『挑戦する』ことを決め、渡航準備に入りました。

 

渡航準備

通っていた日本の小学校の校長先生にお願いして、生徒連絡票など所定の書類を準備していただくとともに、日本人学校への受け入れが不可の場合に備えて英語表記の資料も準備していただきました。(英語表記の資料は、海外子女教育振興財団よりフォームをダウンロードしたか、教育相談のときにご提供いただいたかのどちらかだったと思います。)
医療関係ではかかりつけ医と専門医に診断書や経緯書などを日本語版と英語版で準備していただきました。

 

渡航後

教育相談の時の「一旦渡航するのも一つの方法」という言葉に背中を押していただき、『挑戦する』ことを決めた私たちは、学期が始まる半月ほど前に渡航して、すぐに日本人学校に赴きました。校長先生と校務の先生が出迎えてくださり、校内ツアーもしてくださいました。その時に資料一式をお渡しして目を通していただきました。
直接息子のことを見て、資料にもしっかり目を通してから編入学の可否を決めていただくつもりでしたが、その日のうちに編入学を許可しますというお返事がありました。驚きとともにほっとした瞬間でした。(このとき、渡航一年前にメールしたときの校長先生は帰国されていて、新しい校長先生に代わっていました。)

新しい学校に転入し、息子は一生懸命適応しようとしていたと思いますし、保護者の私たちも息子の様子を注視しながら過ごしました。しかし、転入学の数か月後から、学習面、生活面における困難な部分が表面化してきましたので、担任の先生や校長先生と話し合いを重ねました。最終的に校長先生から、支援員をつけるのはどうかというご提案を受けました。支援員を学校で準備することは不可ということで、保護者自身で準備をということでしたが、現地の日本人会の人材バンクを利用したところ、支援員をしていただける方を見つけることができました。

ここで私たちが支援員さんを見つけることができた日本人会人材バンクについて少し書こうと思います。人材バンクは、多方面において知識や経験をもつ現地在住の邦人の方たちが登録しているHR(Human Resources)リストのようなものです。人材を探す側がどのような人が必要かを伝えると、日本人会がこの人材バンクの中から探し紹介してくださいます。
私たちもこの人材バンクを活用し、数日内に支援員候補の方をご紹介いただけたので、すぐに打ち合わせ等して、新学期に備えることができました。

初めてご紹介いただいた支援員の方は、専門教科の教員免許があり補習校での教師経験もある方でした。特別支援の資格や経験がある方を見つけるのは容易でないだろうと思いましたので、資格や経験の有無にはこだわらず、お手伝いして頂く時間帯やサポートの内容を日本人会に伝え探していただきました。ご紹介いただいた後は面談をし、我が家の事情やしていただきたい支援内容をお話してご理解いただき、双方が納得した後で正式にお願いしました。それから数回支援員さんが交代していますが、その時は、人づてにご紹介をいただいたりしました。現在お世話になっている先生方はチャイルドケアの資格のある方や放課後デイサービスでの勤務経験のある方で、その先生方のご尽力で実際息子の学校生活が充実したものになっていると感じていますので、こういった出会いには本当に感謝しています。

支援の先生にはお手当をお支払いして息子の支援についていただいています。実際には夫の会社と相談の結果、経済的なサポートを得られることになり、おかげで継続的にこの体制がとれていると思います。

 

現在の学校生活

学校、支援員、家庭で連携をとりながら日々息子の学校生活をサポートしています。
具体的には連絡ノートで毎日の連絡や状況確認、学期に一回程度のミーティングで目標設定や課題の確認、個別指導計画書の作成です。

支援員さんについては、基本的には月~金の朝の会から3限まで入っていただいています。
(一日の後半は支援員さんなしで過ごしています。)
現在は主に数学の授業は取り出しで支援員さんによる個別授業、加えてその他の科目のうち息子にとって参加が難しいものは取り出し授業をお願いしています。クラスに入って授業するときは、息子の横に支援員さんが座り、必要なときに声掛けやサポートをしてくださっています。取り出しの時は息子の状態を見つつ、課題に取り組んだり、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)活動を取り入れたりしています。

支援員さんの存在は、息子自身のサポートの役目もあるとともに、学校の先生方にできるだけ負担をかけないことや、クラスメイト達に色々な場面で迷惑をかけてしまわないこと、彼らの貴重な学業時間に息子の世話役に徹してもらうことのないように気をつけることにもつながると思うので、非常に重要だと感じています。

しっかりと連携をとることが学校生活をよりスムーズにする秘訣だということを三者で共通理解していますので、各所気づいたことがあればこまめに連絡をくださるようにお願いしていますし、私からもするようにしています。

当の息子の様子といえば、毎日元気に登校し、何よりクラスメイトのことが大好きなようです。そのような環境で、ゆっくりではありますが、でも着実に成長しているように思います。
親の私も、近頃は思春期の息子への対応に日々難しさを覚えつつも、周りの人たちに支えられて前を向いて過ごせています。

あえて保護者として普段から気をつけていることを挙げるとすれば、以下のようなことです。
ご参考になればと思います。
1 子どもの様子に気を配ること
2 学校の授業や宿題などはできる範囲で努力することが大切だということを子に伝えること
3 学校の先生方や支援員との協力関係・信頼関係を大切にすること
4 何か上手くいかない時にはすべての経験が成長の過程だと考えること
5 週末にはおいしい物を食べたり気持ちのいい空気を吸ったりすること
6 学校以外でも居場所を作ること

 

おわりに…

障害のある子どもを連れて家族が海外に帯同するかどうかは本当に深刻な問題だと思います。
支援学級がないから障害児は受け入れてもらえないのではと悲観している方もいらっしゃるのではないかと思いますし、海外生活を不安とともに過ごしている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ぜひ『挑戦する』ことを改めて考えてみてください。
『挑戦する』中で起こる様々な困難は、きっと無駄なものではないはずですし、必ず将来への糧となると思います。『挑戦する』中で出会う方たちは子どもの成長を一緒に願ってくれる強力なサポーターです。誠意をもってできることを探し求めていけば、一歩一歩進んでいくと感じています。

息子は現在中学生、もし滞在期間が更に延びるようならば進路をどうするか、考え始めているところです。

 

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