第5回 Group With メンタルヘルスセミナー
中国で暮らす日本人のメンタルヘルス と感染症流行時の心理的影響と対策」
講師: 勝田 吉彰氏
近畿福祉大学 社会福祉学部福祉心理学科教授
日時:2006年11月10日
会場:東京ウィメンズプラザ
講師プロフィール
大学卒業後、病院勤務を経て平成3年から1年間英国オックスフォード大学グリーンカレッジに留学。平成6年外務省入省。在スーダン、在フランス、在セネガル日本国大使館 の書記官・医務官を歴任、平成18年3月まで在中華人民共和 国日本国大使館参事官兼医務官を務める。医学博士。
第一部
中国における邦人メンタルヘルス
私は2003年から2006年まで中国北京に在勤し、その職務の中で見た邦人のストレスについて参考となることをお話したいと思います。
また、中国に限らず問題となっている新型インフルエンザが大流行するのではないかと言われています。2003年3月に着任した当時まず最初にぶつかったのがSARSの騒動でした。その時に現地の日本人の方々がどういう心理的反応を示したかについてお話しします。これから中国に進出する企業、赴任される方達は新型インフルエンザに対する心の準備が必要です。邦人メンタルヘルスの一環として重要なことだと思います。
■中国におけるストレス要因
中国生活におけるストレス要因は、大きく分けて、気候・風土によるもの、中国社会・文化・気質によるもの、そして日本人社会・文化・気質によるものに分けられます
気候風土に起因するストレス要因
<黄砂>
ゴビ砂漠が迫る北京や新橿などの北部では、春先になりますと黄砂が吹き荒れます。室内も常にザラつき、埃っぽくなります。ひどい時には外出するのも苦痛で部屋の中はザラザラになり、、行動制限を余儀なくされます。
<花粉アレルギー>
同じく春になると柳じょが綿のように漂い、一種の風物詩になっていますが、これで喘息などのアレルギー症状を悪化させる例も散見します。
杉はもともと中国にはあまりないものですが、日本のNGOも参加して砂漠化の著しいところに杉を人工的に植えたため、スギ花粉症の症状も出ています。
<感染症>
食料市場に象徴されるように、動物と人間の距離が近い中国では新しい感染症が大流行することもあり、SARSや鳥インフルエンザの話題がマスコミを賑わしたのは記憶に新しいところです。それ以外にもねずみが媒体する出血熱が北京郊外の工業開発区に出て、日系企業から予防接種の相談があったこともあります。また日本では見られない細菌性髄膜炎のA型、C型もあります。これらは自分自身の健康に対する脅威のみならず、工場従業員の健康被害、さらには生産ラインの停止といった深刻な影響をもたらしそのストレスが甚大なものとなります。
<厳寒>
気候条件も厳しいものがあります。 最高気温零下の日々が続きます。
中国に起因するストレス要因 (宴会と乾杯)
取引先とのビジネス関係構築や監督官庁との折衝で「宴会」を催し、人間関係を構築することが必須となります。その中で、「乾杯」という習慣があり「白酒」とよばれる55℃のアルコールをイッキ飲みして底をお互いに見せ合うということを繰り返します。中国人の中には要領良く水を入れて飲む人もいますが、日本人は生真面目でそのまま飲むので、結果、急性アルコール中毒スレスレの状態で、会社の看板を背負って塗炭の苦しみを味わうということになります。
実際、この宴会後に吐物の誤嚥や持病の悪化等で死亡する例も続発しており、この、会社の看板を背負った命がけの任務が駐在員に与えるプレッシャーは甚大なものがあります。
中国側に起因するストレス要因(ビジネス上)
<人治主義>
ビジネス関係の法令整備が必ずしも十分とはいえない中国では、必ずしも法律に則って物事が進みません。担当者やカウンターパートの胸先三寸で、それまで積み上げてきた案件がひっくり返ってしまうことは往々にして、先の読めないストレスがのしかかります。
<インフラ面>
最近のめざましい経済発展にともなう生産活動の拡張に比べ、電力や水供給といたインフラ整備が追いついていない面があり、計画停電、それによる生産ラインの稼動停止や生産計画の急変といった事態にキリキリ舞いします。更に現地事情を理解できない日本からのプレッシャーに胃に穴が開く思いを迫られます。
日本側に起因するストレス要因(居住環境)
外国人は原則として、外国人用アパートに居住することになります。中には住民のほとんどが日本人という所もあり、狭い日本人社会が形成されます。
その中で、婦人会や各種委員会、日本人学校への送迎バス当番といったものがあり、それを中心に、日常生活場面まで拡大する形で、相互監視的というか、重箱の隅つつき的な干渉を通じて相互にストレスを高め合ってゆくという現象が観察されます。
日本人気質の、明らかにマイナスな側面です。
日本側に起因するストレス要因(政治的要因)
ここ最近の日中の政治的状況も大きなストレスをもたらします。
<政治的軋轢(尖閣諸島、靖国、資源etc)>
昨今の政治的状況はマスコミはじめ広く報道されている通りですが、特にここ数年の、不必要なまでに中国側を刺激する状況は在留邦人に甚大なストレスをもたらしています。ここのところ不況を脱しつつある裏には、生産拠点を中国に移し廉価な労働力が欠かせなかったわけですが、中国の人々の冷たい視線、面罵に耐えながらその生産活動の前線に立ってきた中国在留邦人に対して小泉首相のあまりに冷たい仕打ちは耳を疑うことの連続でした。
今まで積み上げてきた契約が壊れたり、大企業は水面下で次期政権での契約を約束されていたケースもありましたが、中小の企業の中には日本の工場を畳んで中国で立ち上げたものが崩れたこともありました。日本経済を支えている邦人の苦境を理解してもらえなかったことが大きなストレスとなりました。
今後は、政権交代に伴って情勢も変わってくるのではないかと期待感を持っています。
日本側に起因するストレス要因(多すぎる日本人)
また、在留邦人数の増加があまりにも急激なことからくるひずみも見られます。
<北京日本人学校>
たとえば、私は北京日本人学校の運動会に救護班医師として毎年参加しておりましたが、04年度(500人)と05年度(600人)で明らかに大幅に児童が増加しグラウンドが手狭になったのを感じました。聞けば、1年で生徒が2割増加したとのことです。
<上海日本人学校>
そんな北京日本人学校ですが、上海の在留邦人に聞けば羨ましいと言います。上海では毎月二つずつの企業が進出してくると言われています。毎年校舎を増設しても追いつかず、ついに浦東地区に第二日本人学校の建設を余儀なくされる事態に至りました。新入生は遠隔な新開発地域まで通学することを余儀なくされております。学校の爆発的なマンモス化による教育環境の悪化、先生の目が届かない不安は夫人たち共通の悩みです。
■メンタルケア体制
次に、北京と上海におけるメンタルケア供給体制です。
日本人精神科医による診療は北京・上海ともありません。
<北京>
内科、外科の先生はいますが、耳鼻科、皮膚科、精神科などのマイナー科の先生はいません。その理由としては、医師免許の取得には医師国家試験(外国人は英語で受験できる)に合格しなければなりませんが、全身を診ていないマイナー科の医師には合格が難しいということがあります。また、ロンドン、ニューヨーク、パリなど精神医学の留学をするのに魅力的な国ではそのまま残る医者がいますが、中国はその意味では魅力的な場所ではないということも理由の一つです。幸いなことには、中国にとっては日本が魅力的な国で、精神医学を学びに日本に留学する医者がいることです。
実際に邦人のメンタルケアを行っているのは日本留学歴の長い中国人医師たちによって担われています。単に日本語を話すのみならず、日本の文化・日本人の心情まで熟知し、私の目から見ても質の高い医師の存在はとても心強いことです。
<徐医師> VISTAクリニック(外国人向け高級クリニック)外来のみ
名古屋大学精神科医局に長年在籍し医学博士号取得、その後横浜でも臨床を行っておりました。滞日期間は約8年です。現在は北京のオフィスビル街にある外国人向けクリニックにて心療内科を標榜して外来診療にあたられています。
<喬医師>北京大学第三病院(一般庶民の病院、入院可、直通電話で予約をする)
名古屋大学精神科で学位取得、大学および関連病院で臨床を行っておられました。滞日期間は約10年です。また、喬先生の勤務する北京大学第三病院は外国人の入院が認められている唯一の精神科病棟で、入院レベルのケースでもケア可能です。徐医師と喬医師との連携も行われています。
北京大学第三病院は中国では最先端の情報を持ち、新薬の研究を行っています。前述の2人と石先生や他の日本人医師とも情報交換をしています。困ったことがあれば徐先生か石先生に相談し、入院が必要な場合には喬先生に紹介してもらうと良いでしょう。外国人向けの病棟は外国人、共産党幹部、富裕層の特権階級のためのもので、一般病棟とは異なる特需病棟ですが、入院費は一泊5000-6000円ぐらいです。
<石 医師>
石病院は日系クリニックで外来診療をおこなっています。
プライマリケア主体ですが、石 医師は愛知大学で心理学研修行っており、メンタル関連症例も対応可能です。 滞日期間は約4年です。
※上述の三人の医師についてはGroup Withの
「日本語で受けられる海外のこころの相談機関・窓口」をご参照ください。
<上海>
日本医師免許の書き換えは雇用主が決定していれば可能ですが、日系医療機関の募集はほぼ内科医・プライマリケア医に限られています。
■メンタルヘルス改善へ向けて(企業向けの方へ)
最後に、中国赴任にあたってのメンタルヘルス対策です。
<充分な赴任前オリエンテーション>
海外勤務を前提としない企業が中国に進出することも多く、ともすれば中国事情を良く知らないまま辞令1枚で赴任させられ、非常な苦労をしておられる方々をよく見かけます。赴任前に中国事情に関する十分なオリエンテーションを重ね、中国の文化・習慣に精通した人間とペア派遣するといったことでいくぶんストレス軽減には役立つかと思われます。
<現地スタッフの活用・権限委譲>
日系企業では、他の外資系企業に比べて現地採用の中国人職員への権限委譲が少ないとの定評があり、何でも抱え込んで結果的にストレスの増加につながっている面もあるようです。中国人スタッフへの積極的権限委譲ということも、日本の本社主導で進めてゆくべきでしょう。ストレス軽減のみならず現地スタッフの士気向上にもつながります。
<日本人率の低い公寓(住居)を選択>
小さな日本人社会の軋轢からくるストレスの避けるには、日本人率の少ない外国人アパートを選択するのも一法と思われます。日本語情報誌の中には、各アパートの日本人率を明示して情報提供してくれているものもあります。
<情報の積極的獲得>
大使館・外務省HPにマメにアクセスして情報を獲得する努力もストレス軽減に有効と思われます。
主な情報源
大使館・外務省HP
在中国日本大使館HP
http://www.cn.emb-japan.go.jp/index_j.htmここから大使館メールマガジンに登録して情報得られるようにしてください。
第二部
大規模感染症がおよぼす心理的影響と対策
-SARSの経験から新型インフルエンザパンデミックへ-
私は2003年3月より在中国日本国大使館医務官として在勤しSARS流行に直面し手探りながら在留邦人への対応にあたった経験を有するのでその中から興味ある知見を報告します。
北京のSARS流行、主だった出来事をピックアップしました。
3月より中国南部でSARSの流行が始まりマスコミを賑わすなか、当局発表による北京市の感染者数は1桁から2桁前半で推移しておりました。しかし、実際の患者数はそんなものではないという噂が多く、何となく不安が広がっておりました。
4月6日、機内感染のフィンランド人ILO局長が死亡、外国人社会に衝撃が走りました。
4月8日、軍病院医師が米国TIME誌に内部告発的な寄稿をし、それは、ある病院だけで100名超のSARS患者が入院しているという衝撃的なものでした。これをきっかけに真実の公表を求める国際社会の圧力が高まったこともあり、北京市長・衛生相(厚生労働相に相当)が更迭、4月20日の記者会見にて「感染者数339名」という昨日までの発表の8.5倍の数字が明らかにされ街はパニック状態となりました。
4月24日、医療機関および感染者の発生した住居等の封鎖がはじまりました。
警察により張られた非常線の医療従事者写真が新聞一面飾りました。
4月29日、北京を一時的に離れることが可能な在留邦人は帰国の可能性を含め検討を勧告を発出しました
5月に入ると日本を始めとする先進各国からの援助の申し出が相次ぎ、援助合戦の様相も呈するようになってきました。中日友好病院にて感染管理等技術指導が始まりました。
中旬になると感染者数増加の勢いが落ち着きました。
さて、この間の心的な反応を、時期別に「5つのP」としてまとめてみました。
すなわち、病気に対する不安がじわじわと浸透するSARS Phobia期、公式発表数字が一挙に跳ね上がりパニック状態となるSARS Panic期、事実ではない噂や俗説が一人歩きし街がゴーストタウン状態になるSARS Paranoia期、そして感染者数が落ち着いてくると援助合戦や調査研究で来訪者増えそのアテンドに忙殺されるSARS Politics期、そして流行期に経験した様々なトラウマが語られるSARS PTSD期です。
次に、各ステージごとの内容を説明します。
最初のSARS Phobia期、これは先行する香港・広東の数字と比べ、北京市当局の発表数字が少なく、実際にはもっと多いのではと疑心暗鬼の広がる状態です。
しかし実際の行動には結びつかず、地下鉄車内のマスク着用率は10%から25%ほどでした。
続くSARS Panic期には、それまでの漠然とした不安が白日のもとにさらされ、大使館領事部や医務室の電話は邦人からの電話が絶え間なく鳴り続け、日常診療にも深刻な影響を及ぼすものでした。さらに、SARSに関する講演依頼も殺到しました。
SARS Paranoia段階、街にも邦人社会にも明らかに合理性を欠く「事実ではない噂」が氾濫し、それを信じ込むという状態に陥りました。WHOから飛沫感染であると発表されているにもかかわらず、あたかも外出しただけでSARSに感染するかのごとく雰囲気となり、その結果、王府井をはじめとする繁華街はゴーストタウン状態となりました。
日本人社会でも、○○会社に感染者、○○クリニックに日本人SARS患者発生、挙句の果てには日本大使館員に死者発生、その葬式が○月○日にどこそこで行われるなどというものまで流布するに至りました。
流行の勢いも少し落ち着くと、先進各国から援助の申し出が相次ぎ、援助競争の様相を呈しはじめます。また、しのぎをけずる各国感染症研究者の訪中も相次ぎ、喀痰をはじめとするSARSウイルスの検体を求めて水面下の動きが活発化するなど、様々なレベルで政治的ともいえる動きが見られるようになりました。
その中で、これら感染症専門家とのアテンドを通じてさまざまな知識を得る機会も多く、中には講演スライドを提供してくれる研究者もいたりして、ノウハウ吸収し職務に役立つ機会は多々ありました。
流行もおさまり、SARSが新聞紙面を飾らなくなると、日本に一時帰国していた邦人も現地に戻ってきました。
邦人との懇談会などを開きますと、流行期間中に受けたさまざまなトラウマ体験が噴出しました。一時帰国中に北京在留邦人が受けた仕打ちは親類葬儀出席拒否から、転校生受け入れ拒否、病院受診拒否、学校でSARS君と言われた、石を投げられた等々、あらゆる部類におよび、日本社会・日本人気質の醜悪さを今更ながら実感させられるものでした。
自主隔離勧告時には会社が住居の確保などのフォローをすることも必要かと思いました。
対策
大使館として、次に挙げたことを行いました。
渡航情報は大使館からの情報にもとづき、本省から出るものです。
・4月12日「安全対策に十分注意を払うよう」
・4月20日「感染状況に注意喚起」
・4月22日「渡航の是非を検討促し、不要不急の渡航延期勧告」
・4月29日「一時的に離れることが可能な在留邦人は帰国の可能性を含め検討することを勧告」"
大使館HPでは、広報文化班・医務官・厚生労働省から出向館員と密接な協調のもと頻繁に更新を行いながら詳細な情報提供に努めました。
また、在留届に記載されたメールアドレスあて情報を送るという作業を開始し、その後メーリングリストに発展し現在に至っております。
併行して留学生寮や日本人の多く住む住居群への情報貼り出しなど足を使ったものも行い、また、従来横の連絡が乏しかった北京の日本人医師間のメーリングリストや会合を初め、米国大使館医務官からの情報を各医師に届ける一方でクリニック現場の様子や、援助関係で衛生当局との接触のある医師からも双方向の情報交換がなされるようになり現在も続いているのはSARSの思わぬ副産物でした。
講演会は次のような日程で行いました。
・4月7日 北京日本人学校
・4月10日北京商工会
・4月17日北京日本人会
・4月27日天津日本人会
・5月22日北京日本人学校(再開日。手洗い指導)
企業関係者との定期会合で情報提供するのは、その方面の人脈をもつ経済班が担当と、まさに全館体制でことに当たりました。
考察
SARS期間を通じ、大使館ではIT媒体を駆使して情報提供に努めましたが、その中で、HPによるよりも、メールによるものが好評を博しました。当初、このような危機的状況下、ほとんどの邦人が大使館HPにアクセスするものと期待し詳細な情報をアップしましたが、それにもかかわらず、同じことを質問する電話や更なるサービスを要求する声が寄せられました。在留届に記載されたアドレス、さらにはメーリングリストの運用開始により好評を得られました。
また、SARSのように事実のはっきりしないものの情報提供は、はっきり確定してから完成したものをきちんとした形にまとめて情報提供するのが良いのか、あるいは、その時点その時点でわかった事を「ちぎっては投げ」式にどんどん出してゆくのが良いのか議論がありましたが、きちんと完成したものを目指すと、ともすれば「大使館は遅い」式の批評が出がちで、後者の方が好評なようです。
また、「事実ではない噂」の対応もパニックコントロールの上で重要です。たとえば、「○○クリニックで日本人患者発生」などという噂があれば人脈を駆使して検証することが有用です。問題はその後、その訂正情報をどう出すか。狭い邦人社会で個人のプライバシーとの関連は頭の痛い問題ですが、今回はプライバシーの最大限配慮払った上で、大使館HP上で否定情報を出しました。
さらに、日本人気質独特の問題ですが、自己判断が出来ないという問題があります。「SARSという病気が流行していて日本に帰りたいが根拠が欲しいから役所で勧告を出してほしい」というリクエストが多数寄せられ、渡航情報の枠におさまらない前例なきことに大変苦慮し、結局、本省とも頻繁な協議を経て「一時的に離れることが可能な在留邦人は帰国の可能性を含め検討すること」の勧告で対応しました。また、流行がおさまりつつあると、この勧告があると帰任できないから早く取り下げてくれとのリクエストが矢のように寄せられ、自己判断・自己責任で帰国や帰任する欧州系外国人の姿と対照的なものがありました。
企業においては、現地で判断することが難しいので日本本社の早急な判断が必要なことがあることを理解していただきたいと思います。
新型インフルエンザに向けて
ヒト感染例発生エリア
中国よりインドネシアなど鳥と暮らしている地域に多い。
トリ感染例
人から人へではない。
WHOの定める流行段階
現在フェーズ3の段階でごく少数の感染。闘鶏など鳥と接触している人の少数感染。
フェーズ4はヒト→ヒト感染。5,6では飛行機の運航がとまる可能性がある。
知っておくべき10の事項
新型インフルエンザ関連サイト
まとめ
SARS流行に対する邦人社会の反応を「5つのP」として分類しました。
邦人社会の不安への対処には「こまめな情報提供」が有用で、考えられる限りのあらゆる方法で行いましたが、その中でも「受け手が受動的に情報を得られる伝達手段」や「今わかっている事をこまめに伝達すること」が好評を博しました。
企業などにおいても同様の方法が有効であるとと言えるのではないかと思います。
発生エリア地図/流行段階は講演時点のWHOホームページ出典。適宜更新されすぐに古くなるので、最新のものをWHOホームページから取得されたい。
copyright Yoshiaki Katsuda
第三部 質疑応答
Q1 中国ではメールでの情報発信が有効というお話だったが、現地でのインターネット使用状況は100%と理解してよいのか?
A:在留邦人の間ではほぼそれに近いものがある。PCを持っていない場合もあるが、留学生間では普及している。中国では政府によるサイトの検閲が盛んに行われていて、都合の悪いサイトは簡単に消されてしまうので、HPによる情報提供というのはあまりあてにならない。情報はメールの方が精度は高い。
Q2. 北京の病院に入院する時(特需病棟に)、病院側とのコミュニケーションは何語でなされるのか?
A:言葉の問題は大いにある。日本語を話す医師が一日一回は回診するが、英語のできる看護士は半分以下しかおらず日本語は僅少。付き添いをつけるように言われるので日本語のできる人を選任すると良い。
Q3 上海に赴任中の家族が黄砂の影響で喉の調子が悪いが対策を教えて欲しい。
A:専門ではないが、うがいが有効だと思う。演者の個人的経験ではイソジンのスプレーが良かったが現地では入手できないので日本から持参すること。(特に新疆など砂嵐の激しいところでは)喘息が重症の場合は注意が必要と思うが、はっきりとしたデータに基づくものではない。
Q4 持ち込んではいけない薬はあるか?
A:特にないと思う。麻薬と間違えられるとトラブルになるが日本には(麻薬と間違えられそうなものは)ない。ただ、液体の薬は機内に持ち込むとセキュリティーで開封や没収の危険性がある。海外での強い痛み止めにはモルヒネが含まれる(麻薬扱いになる)錠剤もあるが、日本製の薬にはないと思う。質問からずれるが、中国で購入できるかとなると、現地で売られているのは一流の会社が製造しているものではない場合もあり、同じ薬を中国で入手できるとは限らないので、日本から持って行くほうが良い。2003年までは日本で処方箋がないと手に入らない薬も買え、抗生剤が流行したこともあったが、今は先進国を参考にしつつ改善されている。
Q5 漢方薬と新薬について
A:漢方薬が欲しければ中国医学の医者(中医)、化学的薬が欲しい場合は西洋医学の医者(西医)へというのが本来だが、中西結合というのが新しいトレンドで両方を出してくれる医者がいる。いずれにしても漢方薬は(あやしげなものには手を出さず)信頼のおける医師の診断により処方してもらうのが良い。
Q6 新型インフルエンザに掛かった時に効く薬はタミフルか?
A:ほかにリレンザがあるが、タミフルもリレンザも100%効くかどうかは分からない。
説明書通り飲めばよいが、精神状態が安定してないときに間違ったのみ方をされる可能性もあり、副作用も含め色々懸念はある。大使館にも若干の備蓄はあるが、パニック時は混乱予想されるので会社で用意できるならば手配して持参させると良いと思う。
Q7乳幼児を連れて行く場合、医療面などで不安があると思うが?
A:地域にもよるが、北京や上海では、少なくとも発達に問題のない子どもで障害等ななければ連れて行っても大丈夫だと思う。日本語で受診できる病院や小児科も、SOSクリニックやアメリカ系のユナイテッドファミリー病院、日系の龍頭クリニックもある。上海にも、日系のグリーンクリニックや森ビルクリニックその他もある。大連も良い。瀋陽も乳幼児連れの前例はあるが前記都市に比べると条件はよくない。重慶は止めたほうが良い。深センは香港まで1時間なので香港の病院を利用すればよい。広州は日本人が増えているが病院面には未だ不安がある。蘇州には小児科があるが詳細不明。
Q8日本人駐在員が一人という企業で、単身赴任の場合に注意することは?
A:一人暮らしの場合は周りに気をつけて様子を見てくれる人がいない。また、日本人は責任感が強くて、具合が悪くても簡単に帰国しないので、企業側が定期的に帰国させ(半年に一回以上が理想的)、健診を受けさせるのが良い。自殺予防の観点からも必要。
第5回Group With メンタルヘルスセミナー 講演録 (作成 Group With)
無断のコピー・転載は固くお断りします。
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